乙乃章 参節 譚之十一
ここで初めて、須多爾は仁帆里の方にしっかりと顔を向けた。そして、仁帆里の目からひと筋の涙が
咄嗟に須多爾は、しまった、と思った。
「人を殺めた」ことの事実は十四歳の二人には、あまりにも重かった。だから、須多爾も吐き気を催したのではなかったか。
あまりに軽い口調だったので、仁帆里がどう受け止めているかなど考えもしなかった。
否、仁帆里は大丈夫なのだ、と思い込もうとしていた。
仁帆里は、目を閉じて、鵜師と須多爾の会話を聞きながら悶絶していたのだ。もがき苦しみ、わざとそれを押し殺して覆い隠すように明るく振舞っていたのだ。
須多爾は、そのことを慮るべきだったのだ。いつも、前向きな考え方をする仁帆里には、救われていた。修練で試技に行き詰った時、突破口を開けてくれるのは、決まって仁帆里だった。知らずと、玉花はいつも仁帆里がまとめていた。須多爾は、いや縷々香も自然と仁帆里を頼ることが普通になってしまっていたから、仁帆里に弱い部分があることなど、まったく考えも及ばなかった。浅はかだった、今さらになってそんなことに考えが及ぶのはあまりに遅すぎた。
「仁帆里!」
須多爾は、
「仁帆里。ごめん、ごめんな。俺が悪かった。言い過ぎた。ごめん、本当にごめん」
心の底から、本心で仁帆里に詫びた。いつの間にか、須多爾の目からもとてもたくさんの涙が流れ落ちていた。
須多爾の肩越しに仁帆里が口を開いた。
「痛い! ばか」
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