乙乃章 弐節 譚之四

「はい、自分の軍人魂だまうずいております」

「禁衛府がどんな切り札を持っているのやら分からんが、銃剣を交えられるのであれば、このまま拒絶体制を執り続けてくれても面白いことになりそうだな」

「いえ、無駄な流血はなるべく避けませんと」

「またまた、この期に及んでお主はまた杓子行儀なことを言いよるなあ」

「いえ、あくまでも建て前です」

「はっはっは! よく言った。む、久しぶりに暴れられるか、飛燕ひえん!」

「やも、知れません。そうなりました暁には、ぜひ御伴をさせてください」

「よーし、ついて来い! 十九年に半島の雑魚共を蹴散らしてやったことを、思い出すなあ。なあ、あの時のお主の働きは、まだ俺の瞼に残っているぞ!」

「はい、光栄であります!」

「とはいうものの。なあ」

 専務将校と呼ばれた男が、急に声を潜めた。

「事は、慎重に運ばねばならん」

「はい」

「そうせんと、今までの作戦が水泡に帰すことになるからな」

「承知しております」

「まずは、各地からの捕縛者の移送を迅速に進めねばならん」

「はい、各地区に鉄道守備隊を六個中隊、再編成して派遣完了しております。準備が整い次第、移送を開始するよう各隊長には指示しておりますので、また、ご報告いたします」

「ん、分かった。頼んだぞ。すべては作戦通りにな」

「お任せください」

「あとは金衛府を残すのみ、か」

「はい。ここはもう専将にお出ましいただくしかないと、考えておりました」

「またまた。お主は戦も上手いが、口も上手いなあ。」

「いえ、決してそのような・・・・・・。自分では策尽きました」

「模擬演習では総崩れになると想定していたのだから、仕方のないことだ。では、行くとするか」

「はい!」

 軍服姿の二人は、大内裏の中庭にある金衛府本営へと爪先を向けて歩き始めた。

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