乙乃章 参節 譚之一
「こ、ここは」
思い出したかのように、急に目を見開いて、須多爾はぽそっと
「修練場の医務室だ。まだ、寝ていろ」
窓の外を見ていた鵜師は、覚醒した須多爾に気がつくと、簡潔な物言いで告げた。
「はあ、修練場の医務室ですか。どうしてまた、そんなところにいるんでしたかねえ」
須多爾は、また修練中にしくじりをしてしまったかと、いつもの習い性で咄嗟に考えた。
「えええっとぉ、うーん。どうしたんだっけかなぁ」
どうとも表現の出来ない中途半端な表情を浮かべていた須多爾の顔色が、突然なにかに思い当たったように青ざめた。
「はっ! 鵜師。仁帆里! 仁帆里は」
慌てた風に大きく叫んだ。
「安心しろ。お前の隣の寝台だ」
須多爾は、鵜師の言葉に、隣で寝息を立てている仁帆里を見遣った。
「あぁ、仁帆里、いた。よ、かった、よかったよかったぁ」
須多爾は友の姿を認めると、心底安心したように嘆息した。
「ええと。それで、どうしてこんなところにいるんだっけ」
眉間にしわを寄せながら、須多爾は独り言を言った。横になりながら、人差し指で自分の額をトントンと小突きながら、天井を眺めていた。頭が、混乱しているようだった。
「ええと、縷々香のことでぇ、鵜師と話していてぇ。ええっとぉ、どうしたっけかなあ」
ますます須多爾のしわが深くなる。
「んー」
「あっ」
「いや」
「んー」
記憶が混濁して、まるでうまく思い出せそうになかった。
「はっ! 縷々香! 鵜師、縷々香は?」
「縷々香は、まだ、ここにはいない」
「え? どうしちゃったんですか。どこいっちゃったんでしょうか」
鵜師は、険しい顔をするだけで、無言で須多爾を見つめていた。
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