乙乃章 零節 譚之三
「それはそれはお疲れさまでした。まあ、これも何かのご縁でしょうから、今日のお代は店主にいって
「本当かい。それじゃあ、ありがたく頂戴するよ。これで私の仕事も報われたってものさ。ああ、王に長寿と、国土に繁栄を」
といって、
男がその場に不釣合いな笑みを漏らしたことに、給仕はまったく気がついていなかった。
場内は国王の臨席ということもあって満場だった。
まずは
さらに外国の賓客からの祝辞がいくつかと、楽団による祝典曲の演奏が続いた。
そして最後に国王からこの日を迎えられたのは臣民の勤勉と忠誠の
国王陛下からの直接の
歓声や拍手は長い間鳴り止まなかった。取り立てた派手さはないが、とても威厳に満ちた祝典だった。
王族席に向けられていた柔らかい灯りが消され会場のざわめきもようやく収まりかけてきたころ、いったん閉じていた
弦楽器の音が響くと、それまで思いつめた感じの表情を浮かべていた少年は意を決したように走り出し、彼の背丈ほどもある長刃の切っ先をくるくると回転させながら舞台の上で跳ぶように踊った。ひと跳びで自分の背丈の倍は跳んでいるだろうか、折れてしまいそうにも見える少年のからだは大きく
いままで抑えつけていたものを、一気に解き放つかのような、とても開放的な躍動感にあふれる舞だった。その大きくはない体躯全体で懸命に表現を続ける少年は、踊れるのが嬉しくてたまらないといった表情をしていた。
大きかった曲のうねりがやがて静かな調子に変わり、少年は曲の切れ目で
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