乙乃章 壱節 譚之三

 なに、なんの練習だったっけ。友とはなにを練習していたのだっただろうか。

 目を閉じて再度問う。なんの練習だったろうか。手にしていたのは、なんだったろう。

 白く長い。長く鋭い。白く輝く、長い?

 剣、そうだ剣だ。長い白刃を使って、ええと、そうだ舞だ。舞のおさらいをしていた。

 なぜ、舞を。何の舞を、踊っていたのだろう。

 思い出そうとすると、ひどく頭痛がした。

 頭を両腕で抱えようとしたら、さらに激しい痛みが走った。

いたっ!」

 どこかで頭を強く打ったみたいだ。そう思って、そおっと頭を触るとコブが出来ていた。じゃりっとした感触が手に触った。血? 血も出ていたみたいだ。でも完全に乾いている、とするとずいぶんとここにいたことになる。血が完全に乾くのにはどれくらいかかるのだろう、そんなことをなんとなく考えた。


 そして、また再び考える。

 なに、があったろう。

 目が覚めてからの短い時間でも、もう数え切れないほどした自問自答をまた繰り返した。

 思い出せそうなのに、あともう少しで思いが途切れてしまう。何度やってみようとしても、記憶がうまく辿たどれない。自然と手が頭のコブを触ろうとする。

「っつ!」

 かまわずそのまま指先にすこし力をこめて爪を立てる。

 急にズキンズキンと額の脈が大きく打ち始めた。どうやら出血がぶり返したようだった。

 すると、いきなり痛みの中に何かが見えた。

「はあっ」

 あまりの痛さに声が出た。でも、力を緩めなかった。そのまま指先に力を入れ続ける。指先にヌルッとしたものが触れる。指先は激しい鼓動こどうを感じていた。顔をしかめずにはいられず、胃の中のものまでが逆流しそうだった。

 しかし、それとは引き換えるように頭の中心を支配していた頭痛がさぁーっと嘘のように引いていくのが分かった。

 再び熱を持って流れ出た鮮血が目に入らないように指で拭う。思わず深い溜息が漏れる。

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