仲間

 パティは道すがらデイジーに言った。


「デイジーは女性なのに剣士なんてかっこいいですね」

「うぅん。冒険者になるのに、選択肢がそれしかなかったから剣士を選んだの。だってあたしの魔法フラワーはちっとも戦闘向きじゃないもの」


 デイジーが手のひらを上にすると、色とりどりの花が出現した。


「わぁ!なんて綺麗なの」


 パティは幻想的な光景にうっとりとした。デイジーは苦笑して言った。


「あたしの家はね、花屋なの。父さんも母さんも魔法は《フラワー》。当然父さんは私が花屋を継ぐものだと思ってたみたいだけど、あたしは花屋になんかなりたくなかった。もっと色んな世界を見てみたかったの。だからね、あたし家を飛び出して来ちゃったの」


 パティも同じだ。神父のジョナサンはパティに治癒魔法を継いでほしいと願っていた。だがパティは別な魔法を願い、マックスたちと旅に出た。パティはデイジーに言った。


「デイジー、私も同じです。養父の神父さまは私に治癒魔法を継いでほしかったのに、私の魔法は《フレンド》になったんです」

「同じじゃないよ。あたしは親のいいなりだった。だけどパティは違うわ。自分の魔法を手に入れたんだよ?」


 デイジーはそう言って寂しそうに笑った。デイジーの笑顔は、パティにもいちまつの寂しさを感じさせた。


 デイジーはパティを宿屋に連れて行ってくれた。その宿屋は二階が宿で一階は酒場になっていた。酒場に入るためにはマックスたちには小さくなってもらわなければならない。


 パティはマックスとチャーミーに小さくなってとお願いし、アクアのいるショルダーバッグに入ってもらった。ピンキーはパティの肩にとまる。


 それを見たデイジーは、便利ねぇと呟いた。酒場に入るとデイジーに手を振る若い男性がいた。デイジーも笑顔で手を振りかえす。デイジーにうながされ、パティが酒場のテーブルにの前に行くと、そこには三人の男性がいた。パティとデイジーが席につくと、デイジーに手を振った男性がパティに気さくにあいさつをしてくれた。


「やぁ、パティ歓迎するよ。俺はエリオ、職業は武闘家だ。ちなみに魔法は《バードアイ》。目をつむって意識を集中すると、上空からの景色が見えるんだ」

「鳥のように地上を見る事ができるんですか?!すごい魔法ですね」


 パティが驚いて言うと。エリオは苦笑して答えた。


「そうでもないさ。目をつむると、俺の頭が見えるんだ。つまり見える範囲が俺のいる場所のみなんだ。俺の親父が建築家でさ、親父と同じ魔法なんだけど、俺は建築の仕事は向いてなくてさ。それで冒険者になったんだ」


 次はエリオと同じ年くらいの小太りな青年だ。


「僕はコジモ。職業はアーチャーだ」


 コジモはイスに立てかけてある弓を手に取った。コジモは恥ずかしがり屋なのか、モジモジしながら言った。


「魔法を言うのは恥ずかしいなぁ。僕の魔法は《コマンド》。人に止まれとか、動くなとか命令するんだ」

「えっ?!人を操る事ができるなんて、すごい魔法じゃないですか!」


 パティが大きな声で言った。コジモは小さな声で答える。


「そんなすごいものじゃないよ。僕の父さんは教師なんだ。反抗的な生徒がいる時に使う魔法なんだけど、一人の動きを止める命令だけで、頭が痛くなっちゃうほど疲れるんだ。僕も父さんと同じ教師になろうとしたんだけど、気が弱すぎて、生徒にもなめられちゃって、それで冒険者に、」


 コジモの声はどんどん小さくなった。仲間たちは暗い顔になっていく。最後の仲間の一人が、ことさら明るい声で言った。


「最後は私だな、私はトグサだ。職業は学者を名乗っている。剣も武器もまるでダメだから、いつも皆に守ってもらうんだ」


 トグサは一番年長で五十代くらいに見えた。エリオはトグサの肩に手をポンと置いて言った。


「トグサは頭がいいからな。俺たちを指揮してくれるリーダーなんだ。それに、このパーティで一番のエリートなんだぜ?」

「よせよエリオ。昔の話だ」


 パティは話が分からずキョトンとしていると、トグサが苦笑しながら答えた。


「私は以前裁判官をしていたんだ。私の魔法は《トゥルース》。つまり相手の心を読むんだ。こんな魔法は願うべきじゃなかった。人の心を覗くなんて、もっとも下劣な行為だ」

「あたしはそうは思わないよ。トグサだから神さまは《トゥルース》をさずけてくれたんだと思う。でなきゃ、絶対悪い事に使うわ」

「うん、僕もそう思う。トグサはよっぽどの事がなきゃ魔法を使わないものね。僕たちの心を覗いた事もないでしょ?」


 気落ちしたトグサをはげますように、デイジーとコジモが続く。トグサはとたんにニヤリと笑ってコジモに言った。


「それはどうかな?コジモが夕飯の前に買い食いした事を私は知っているかもしれないぞ?」

「ひ、ひどいよトグサ!僕の心を読むなんて!」


 悲鳴のような声をあげたコジモに、エリオが呆れ顔で言った。


「コジモが買い食いしたなんて心を読まなくてもわかるぜ?口の周りにタレがついてるからな」


 真っ赤になったコジモの顔を見て、皆ゲラゲラと笑った。パティは彼らがとても仲良しなのだとわかり嬉しくなった。


 


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