親玉

 パティは嬉しさのあまり飛び上がって喜んだ。デイジーたちは盗賊との戦いに勝利したのだ。しかも相手を殺さずに。パティはデイジーたち冒険者がとても誇らしかった。


 槍を納めて目をつむっていたエリオが叫んだ。


「親玉が逃げるぞ!」


 パティはハッとした。グリュウ盗賊団の統領の事だ。木の陰に、人の背中が見えた。その人物は一目散に逃げて行く。


 あれがパティたちを無常にも殺そうとしたグリュウ盗賊団の統領なのだと思うと怒りが湧いた。部下たち戦わせておいて、いざ部下が負けると、助けもせずに逃げている。


 パティはマックスにお願いと言った。マックスはガウッと返事をすると、風のような走りで追いかけて行った。


 次にエリオが続く、遅れてパティたちもかけだした。デイジーとコジモはものすごい速さで走って行く、パティはゼェゼェと激しい息をしながら後を追った。トグサはパティを気にして歩調を合わせてくれている。


 みかねたチャーミーがニヤァと鳴いた。自分の背中に乗れというのだ。パティは情けない気持ちになりながら、ありがとうと言って、大きくなったチャーミーの背中に乗った。


 パティはトグサも一緒にチャーミーの背中に乗ってくれと提案したが、トグサは笑って辞退し、涼しい顔でチャーミーの横を走っていた。


 パティたちがマックスに追いつくと、マックスは一人の男の背中に前脚を乗せてワンワンと鳴いた。


「おのれ、三流の冒険者どもめ。この俺をこけにしてくれた事を死ぬほど後悔させてやる」


 隻眼でヒゲづらの男が、うらめしそうにパティたちを見上げた。この男がグリュウ盗賊団の統領メグリダなのだ。


 エリオはメグリダの側にツカツカと歩みよって、メグリダの胸ぐらを掴んでドスの効いた声で言った。


「おい、テメェ。グリュウ盗賊団だかなんだかしらねぇが、部下置いて逃げる奴が偉そうな事言うんじゃねぇ・・・」


 エリオは突然話しをやめ、メグリダの背中に乗っているマックスを邪険に追い払った。


 マックスはグルルとうなり声をあげている。エリオの様子がおかしい。パティが不安そうにエリオを見つめていると、彼はうやうやしくメグリダを抱き起こして言った。


「大丈夫ですか、メグリダさま」


 パティはギョッとした。エリオはメグリダの魔法カリスマにかかってしまったのだ。


 メグリダはいまいましそうにエリオを見ると、エリオの頬を思いっきり叩いた。


「よくも俺さまの胸ぐらを掴んでくれたな。本来ならば自害させているところだが、目の前の奴らを殺せば許してやる」

「はっ、おおせのままに」


 エリオは手に持った槍をパティたちに向けた。

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