チコリばあさん

 パティは収穫した野菜をバスケットに入れ、マックスたちを連れて、教会の近くにあるチコリばあさんの家に向かった。


 チコリばあさんは、神さまから《薬草》の魔法を授かった。チコリは薬草を使って、村の人たちを助けていた。だが歳をとるにつれて、身体がいう事をきかなくなった。


 チコリの神経痛はジョナサンの治癒魔法でも治る事はなかった。チコリのそれは歳を取って起こる痛みなのだ。パティは小さな頃からチコリに可愛がってもらっていた。


 パティはチコリばあさんが大好きなので、チコリが足が痛いというと、いつもチコリの足をさすってあげていた。


「チコリおばあちゃん、こんにちわ。おすそ分けに来たの」

「あら、パティ、皆。いらっしゃい」


 パティがノックの後ドアを開けると、チコリは定位置である背もたれのあるイスに座っていた。


「おばあちゃん、足の具合はどう?」

「そうねぇ、夜になると痛むの。もう仕方ないわねぇ」

「私が痛いところをさすってあげるね?それと神父さまが、マフサたちがたずねて来たと思うけど、どうしたか聞いてきなさいって」


 それまでニコニコしていたチコリばあさんは途端に顔をしかめて言った。


「あんな親子、追い出してやったわよ!あの悪ガキは、私の薬草畑を燃やしておいて、謝りもしないで火傷の薬をよこせだなんて!ずうずうしいったらありゃしない!」

「あはは。神父さまが言った通りだ。でもね、おばあちゃん。マフサの火傷は、マックスが私を守るためにやった事なの」

「何だって?マックスがマフサを火傷させたのかい?」


 チコリがマックスの名前を呼んだので、マックスは元気よくワンと返事をした。パティは顔をくもらせながら、チコリばあさんの足元に座り、チコリの痛む右足が楽になるようにさすりながら言った。


「マックスだけじゃないわ。ピンキーもチャーミーもアクアも魔法が使えるの。だけど、マックスは私を守るためとはいえ人を傷つけた」

「パティが気にやむ事ないんだよ?パティはマックスたちをほめてあげなきゃ。マックスたちはパティのために魔法を使ったんだから。それにね、マフサにはいい薬だ。魔法の強さに溺れ、人に迷惑かけて」

「ええ、そうね。でも私は皆に、誰かのためになる魔法を使ってほしいの。チコリおばあちゃんの足の痛みがよくなる魔法がいいな」


 パティがつぶやくように言うと、マックスたちが一斉に鳴き出した。パティはびっくりして叫んだ。


「えっ?!おばあちゃんの足の痛みを治せるの?!」


 マックスとチャーミーとピンキーとアクアは目をキラキラさせた。マックスたちはチコリばあさんを治せるというのだ。


 マックスたちはチコリを囲むように近寄った。マックスとチャーミーはチコリの両どなりに座り、ピンキーはチコリの肩にとまった。パティのポケットに入っているアクアが、チコリの膝の上に乗せてといった。パティがアクアをそっとチコリの膝の上に乗せると、チコリが突然輝いき出した。


 パティは驚いて目をつむった。ようやく光が落ち着いて目を開いて驚いた。チコリが先ほどと明らかに違っているのだ。


 白髪だった髪が、少し茶色くなり、肌のしわも少なくなったようだ。チコリは不思議そうに立ち上がって叫んだ。


「あら!足が痛くないわ!それに身体がとっても軽いわ」


 パティは震える声で言った。


「チコリおばあちゃん、昔に戻ってる」


 マックスたちは、魔法の力を合わせて、チコリばあさんを若返らせてしまったのだ。パティはマックスたちの魔法の強さに、一抹の不安を覚えた。時間を巻き戻す魔法など、世のことわりから逸脱しているように思えたからだ。


 パティはチコリに、マックスたちの魔法の事は誰にも話さないようにお願いしてチコリの家を後にした。


 パティが心配していた、村人たちのジョナサンへの糾弾も無かった。


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