ジョナサンの思い

 ジョナサンがパティと初めて出会った時の事を今でもよく覚えている。とても寒い日の夜だった。ジョナサンが暖炉に薪をくべていると、トントンというノックの音が聞こえた。


 こんな夜ふけに誰だろう。ジョナサンは急なケガ人がでたのかと思い、急いでドアを開いた。だが外には誰もいなかった。足元に籐で編んだカゴが置いてあった。その中には可愛い赤ん坊がスヤスヤと眠っている。


 捨て子だ。ジョナサンは直感し、大声で叫んだ。


「もし、この赤子の親御さん!どんな理由があるのか知りませんが。出て来てくれませんか?!私も力になります。どうかあなたとこの赤ん坊が離れて暮らさなくても良いように、一緒に考えてくれませんか?!」


 ジョナサンがいくら呼びかけても、赤ん坊を捨てた人物は現れなかった。ジョナサンはブルリと身体を震わせた。この寒さでは赤ん坊が風邪を引いてしまう。


 ジョナサンは仕方なく赤ん坊が入っているカゴを持ち上げた。


 ジョナサンが赤ん坊をベッドに寝かせようと抱き上げると、赤ん坊の下に手紙があった。手紙には流暢な女文字で一言、名前はパティです。どうか可愛がってください。とだけ書かれていた。


 本来ならパトリシアのはずだが、赤ん坊の名前は愛称で書かれていた。ジョナサンはパティを愛し育てようと心に決めた。


 パティはスクスクと成長した。だがパティは村では珍しい黒い髪と黒い瞳の女の子だった。ジョナサンが住んでいるドミノ村では、昔から黒は不吉の色という迷信があった。


 それにドミノ村には黒い髪と黒い瞳を持つ者は一人もいなかった。迷信深い村人は、いつしかパティを忌子と呼ぶようになった。


 パティは村の大人たちから無視され、子供たちからいじめられていても、決して泣き言を言わなかった。パティはとても心の優しい女の子に成長した。


 パティがもうすぐ十歳になる頃、ジョナサンはとても悩んでいた。パティが神さまから授かる魔法の事だ。


 十歳とはいえまだまだ子供に、人生を左右してしまうような魔法を授かるのはとても難しい。そのため親は自分の魔法を子供に受け継がせようと考える。


 親が持っている魔法ならば、制御方法も訓練方法も熟知している。他ならぬジョナサンも、母が治癒魔法の持ち主だった。幼いジョナサンは、常に人の助けになる治癒魔法を持った母が誇らしかった。


 神さまから治癒魔法を授かったからといって、すぐさま魔法が使えるわけではない。治癒魔法とは、人体の事を学んでいないとできないのだ。そのためジョナサンは解剖学、生理学を徹底的に学んだ。そのかいあって、たくさんの人々を癒す事ができるのだ。


 だからジョナサンは、パティに自分の治癒魔法を継いでほしかった。パティが治癒魔法を授かれば、ジョナサンが治癒魔法を指導する事ができるからだ。いわば親心だ。


 だがパティは治癒魔法を授かりたくはないようだった。パティは忌子とさげすまれ、友達が一人もいなかった。パティは自分を愛してくれる友達を心の底から欲していた。


 友達ができる魔法とはどのようなものだろうか。人の心を操る精神感応系の魔法だろうか。そんな魔法で作った友達を、はたして真実の友達といえるのだろうか。


 


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