野宿
しきりに鳴くマックスとチャーミーを見て、デイジーが質問した。
「マックスたちは何て言ってるの?パティ」
「マックスたちは私を背中に乗せてくれると言ってるんです」
「まぁ、優しいのね?でもパティが乗ったらマックスは動けなくなってしまうわね?」
「いいえ。マックスもチャーミーも大きさを変える事ができるので、私を乗せられるんです」
「あら、ならパティはマックスに乗せてもらいなさいな」
驚いたように言うデイジーに、パティはキッパリと言った。
「いいえ、私は冒険者になったんです。自分の足で歩きます」
パティの決心の言葉に、デイジーは驚いた顔をしてから苦笑いになって言った。
「パティ。冒険者になったからって、すぐにあたしたちと同じようにしなくていいのよ?ゆっくり成長しなさい」
「・・・。はい、」
パティは姉の言葉にしたがって、マックスにお願いと言った。マックスは嬉しそうにワンッと鳴いてから、ムクムクと大きくなった。エリオに持ってもらっていたパティのリュックサックをマックスの腰に結びつけ、チャーミーを抱いて、ピンキーを肩に乗せたパティはマックスの背中に乗った。
馬ほどに大きくなったマックスに乗ると、パティの視界はグンと高くなる。
「わぁ!マックスはすごいねぇ!」
デイジーが小さな子供みたいにはしゃいで言った。マックスがワンワンッと鳴いてデイジーに何か言った。デイジーが首をかしげているので、パティが通訳する。
「デイジーが疲れたらマックスが乗せてあげるって」
「あはは、ありがとうマックス。でもあたしは大丈夫よ?」
「ねぇ、マックス。僕は僕は?」
デイジーの横に並んで歩いているコジモが言った。マックスがまたワンワンッと鳴いた。パティが笑いながら通訳する。
「コジモさんは自分で歩いてって」
「チェッ!マックスは男女差別だ」
ふてくされるコジモにパティたちは声をあげて笑った。
依頼人の馬車は夕方まで動き続け、辺りが薄暗くなってからようやくとまった。今夜はこの場で野宿をする。
トグサたちは慣れた動作で野宿の準備をした。エリオとコジモが枯れ木を取り、焚き火をおこす。トグサとデイジーは夕食の準備だ。デイジーはリュックサックから鍋やナイフを取り出している。
パティがチャーミーにお願いと言うと、たくさんの野菜と果物を育ててくれた。焚き火の横に大きな鍋を置いて、アクアにお願いと言うと、鍋に水が張られた。
デイジーたちは喜んでチャーミーとアクアに礼を言ってくれた。デイジーはトマトと玉ねぎとにんじんとズッキーニのたっぷり入ったミネストローネを作ってくれた。
トグサは依頼人のイエーリにも一緒に食事をしようと声をかけたが、イエーリは自分の食事は自分で用意しているから構うなと言って、馬車の中に引っ込んでますしまった。
トグサは肩を軽くあげてから、食事にしようとパティたちをうながした。パティはスープの美味しさに舌つづみをうった。
「デイジー!とっても美味しい!」
「えへへ。チャーミーの作ってくれた野菜が美味しいからだよ」
デイジーは恥ずかしそうに言うと、野菜を食べているチャーミーの頭を優しく撫でてありがとうと言った。
エリオとコジモもスープをすごい勢いで食べながら言った。
「本当だ。デイジーの料理はいつも美味しいけど、今日はすごく美味しい!」
「僕、このスープなら後五杯は食べれるよ!」
「コジモはいつもスープ五杯は食べてるじゃないか」
トグサがコジモに苦笑しながら言うと、皆笑った。しばらくしてからデイジーが口を開いた。
「あーあ、あたしもチャーミーみたいに美味しい野菜が作れたらなぁ」
「デイジーの魔法は《フラワー》だから野菜は作れないものね」
デイジーのなげきに口をモグモグさせているコジモが続く。パティは側にいるチャーミーと会話してから、デイジーに言った。
「デイジー。チャーミーが、花をつける植物なら、成長させきって作物を収穫するのは可能だって言ってます」
「あっ、そうか。できるかも!」
デイジーが地面に手をかざすと、地面からニョキニョキと植物が生えてきた。その植物は、やがて可愛い白い花を咲かせた。
「わぁ、可愛い。いちごですね?!」
パティの声にデイジーはうなずいて言った。
「さぁ、これからもっと成長させるわ」
デイジーは真っ赤ないちごを出現させた。デイジーは摘み取ったいちごをパティたちにわけてくれた。
「酸っぱい!」
「すっぱぁ!」
デイジーの作ったいちごはとてもすっぱかった。落ち込むデイジーに、コジモがなぐさめるように言った。
「大丈夫だよ、デイジー。いちごジャムにすれば美味しく食べられるよ」
「私たちは冒険者なのよ?のん気にジャムなんて作ってられないわ!」
すっぱいいちごに顔をしかめていたチャーミーがニャーニャーと言った。パティはデイジーに通訳する。
「デイジー。チャーミーが、美味しい果物や作物を作るには、土の栄養とお日さまの光を意識して魔法を使ってって。大丈夫、練習すればきっと美味しい果物と野菜が作れるって」
デイジーは笑顔になってチャーミーを抱きしめた。
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