事件

 翌日もパティたちは依頼人の馬車について歩き続けた。もっともパティは大きくなったマックスに乗せてもらっていた。


 昼に短い休けいをとり、ひたすら歩く。日が暮れてきたので、ここらで野宿の場所を探そうと依頼人に声をかけた時の事だった。


 ここまでくれば後一日で目的の街まで行ける行程だった。皆が銘々野宿の準備をしようとしていると、エリオがもったいぶった声で言った。


「皆、待て。荷を解く前に、俺が《バードアイ》でこの場所の安全を確認してやろう」

「はいはい、よろしくお願いしますよ。エリオさま」


 エリオの言葉にコジモが茶化す。エリオは目をつむって精神を集中しているようだった。


 エリオはしばらくして、目をつむったまま顔をしかめた。


「どうかしたの?エリオ」


 デイジーが不思議そうに声をかける。エリオはいつもの穏やかな声から、厳し声になって言った。


「皆、依頼人とパティを守って戦闘態勢を取れ。囲まれてる!」


 エリオの言葉にパティたちはギクリと身体をこわばらせた。トグサが静かな声でエリオに確認した。


「エリオ、相手は何人だ?」

「七、八人の男たちがかたまりになって、四方から俺たちを囲んでいる。まるで俺たちが来るのがわかっていたみたいだ」

「約三十人か、ぶが悪いな。コジモ、イエーリさんを馬車から呼んで来てくれ。命が大事だ、馬車の荷物はあきらめてもらおう」


 トグサの指示にコジモは走って依頼人のいる馬車に近づいた。当の依頼人は、コソコソと馬車から降りて、パティたちと距離を取ろうとしている。


 どうも様子がおかしい。コジモもイエーリの不審な様子に気づいたのだろう。


「イエーリさん!危険です!僕たちの側にいてください!」


 イエーリはギョッとした顔になり、一目散に駆け出した。これはいよいよおかしい。


「止まれ!」


 コジモは大声で叫んだ。驚いた事に、イエーリは走り出そうとしたままの形で止まっていた。コジモの魔法コマンドだ。コジモはイエーリに自分の側に歩いて来るよう指示した。


 イエーリはまるで操り人形のようにコジモの前で止まった。パティたちがイエーリを取り囲む。コジモが怖い顔でトグサを呼んだ。トグサは顔をこわばらせてうなずくと、イエーリの目をジッとのぞいた。きっとトグサの魔法トゥルースを発動したのだろう。


 しばらくしてトグサはうめくように口を開いた。


「やられた。私たちは罠にはめられたんだ」

「罠ってどういう事だよ!トグサ」


 エリオがせっついてトグサに質問する。トグサは顔を下に向けて答えた。


「イエーリという商人は、街に運ぶ商品に多額の保険金をかけている。もし商品を運ぶ途中に、盗賊に襲われ商品を盗られた時に保証してもらえるように。私たちは盗賊に襲われたという証拠として雇われたんだ」

「つまり、どういう事?」

 

 言葉を切り、口をつぐんだトグサに、コジモはゴクリとツバを飲み込んでから先をうながした。


「イエーリと周りを取り囲んでいる盗賊たちはグルなんだ。私たちは盗賊たちに殺される」

 

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