魔法の特訓

 休けいの後パティたちは魔法の特訓に取りかかった。盗賊団がパティたちに攻めてくるのは明朝だとわかっている。それまでにトグサたちの魔法の底上げをしなければならない。


 《バードアイ》のエリオはピンキーが指導し、《フラワー》のデイジーはチャーミーが指導、《コマンド》のコジモはアクアが指導し、最後の《トゥルース》のトグサの指導はマックスがする事になった。


 パティはマックスたちの通訳だ。パティは先ず、エリオの肩にとまり、しきりにピィピィ鳴いているピンキーの通訳に取りかかった。


「エリオさん、ピンキーが言ってます。エリオさんは《バードアイ》を人間の目で見ようとするからよく見えないんだって」

「人間の目?」

「はい。《バードアイ》には何の規制もへだたりもないんです。エリオさんは鳥のようになって、どこへでも好きなところを見に行けるんです。見たいものを見る事ができるんです」


 エリオは真剣な顔になって目をつむった。だがすぐ目を開いて言った。


「真っ暗で何も見えない」

「まだ人間の目で見ていますねぇ」

「んな事言ったってわかんねぇよ!」

「仕方ありませんね。ピンキーがエリオさんに同調すると言っています」

「同調?」

「はい。ピンキーがエリオさんの精神に無理矢理入り込んで魔法を教えます」

「・・・。それって大丈夫なの?」

「かなり危険だそうです。でも私たちには時間がありません。荒療治です」

「仕方ねぇなぁ!ピンキー!頼むやってくれ!」


 エリオは再び目をつむった。エリオの肩に止まったピンキーも一緒に目をつむる。しばらくすると同調が始まったようだ。エリオはワァッと叫び声をあげて目を開いてしまった。顔から滝のような汗が出ている。パティが心配そうにエリオを見上げる。


 エリオはこわばった笑顔で答えた。


「大丈夫だパティ。まるで身体が空に吹っ飛んだような感覚になっただけだ。慣れればどうって事ないさ」


 エリオの肩に止まっているピンキーがピピッと鳴いた。エリオは自分が引き受けるから、別な人の所へ行けというのだ。パティはうなずいて、何やら騒いでいるデイジーとチャーミーの元へ行った。


 デイジーはパティが近寄ると、ホッとした表情で言った。


「パティ!チャーミーが怒っているみたいなんだけど、何て言ってるかわからないの」


 デイジーの周りには、たくさんのバラのツルが伸びている。だがそのツルたちは動きを止めたままだ。


 パティはチャーミーがニャッニャッとうったえている言葉にフンフンうなずいてから答えた。


「チャーミーは、デイジーが植物の固定概念にとらわれている事が、うまく攻撃魔法に転用できない原因だと言っています」

「・・・。チャーミーはそんな難しい事を言っていたの?どうすればいいのかしら」

「チャーミーがお手本を見せると言っています」


 チャーミーがニャッと一声鳴くと、地面からものすごい勢いでバラのツルが伸びていった。そのツルはまるで意志をもっているかのように縦横無尽に伸び続けた。


 デイジーは動物のように動き続けるバラのツタを、ぼう然と見上げて言った。


「これを、やるの?あたしが?」

「はい。チャーミーが、デイジーは順応が速いからすぐできるようになるって」

「わかったわ。あたしやってみる!チャーミー、悪いところはどんどん指摘してね?」

「ニャッ」


 デイジーとチャーミーは黙々と魔法の訓練を続けた。

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