魔法の特訓3

 パティは最後の人物の元に向かった。トグサは地面に座り、横に伏せをしているマックスの頭を愛おしげに撫でていた。パティが近づくと、トグサは笑顔で迎えてくれた。


「やぁ、パティ。マックスがたくさん話しをしてくれたよ?パティはガンコで、一度言い出したら絶対に意見を曲げないって」

「まぁ、マックスったら」


 パティがマックスをにらむと、マックスはフイッとそっぽを向いている。トグサはおかしそうに笑った。


 《トゥルース》の魔法を持っているトグサは、マックスの心を読む事ができるため、パティの通訳はいらないのだ。パティはマックスのとなりに座って言った。


「トグサさん。マックスから魔法のコツを教えてもらいましたか?」


 トグサの代わりにマックスが答えた。マックスはしきりパティにワンワンと吠えた。


「まぁ、トグサさんは魔法の特訓は必要なかったのね?」

「ああ、私に必要なものは覚悟だ。私は裁判官という仕事をしていて、多くの罪を犯した人を見てきた。彼らは表面上は同情を誘うような反省の言葉を述べていた。だが心の中では、怨みねたみそねみ、あらゆる悪意を心に秘めていた。私は彼らの心に触れて恐ろしくなった。いずれ私は気がふれてしまうのではないかと。私には《トゥルース》の魔法を使い続ける覚悟がなかった。私は逃げた、逃げて逃げて、冒険者をしながら学者のまね事をするようになった。そこでエリオたちに出会ったんだ。彼らはとても気持ちのいい連中だった。私が心を読まなくても、親切で正直な、心の綺麗な人たちだという事がすぐにわかった。私は彼らに甘えていた。私が《トゥルース》を使いたくない事を知って、無理に使用してくれとは頼まなかった」


 トグサはそこで自嘲気味に笑って言葉をくぎった。パティはトグサの横顔をじっと見つめていた。トグサはため息をついてから言葉を続けた。


「仲間を危険な目にあわせたのは、私の責任だ。私が商人のイエーリの心を読んでいれば、こんな事態にはならなかった。私は仲間を失うかもしれない事態にはなって初めて慌てた。自分が《トゥルース》を使わなかった事を心の底から悔やんだ。私は仲間を守りたいんだ。私は自分の魔法と向き合う覚悟ができた。このチャンスをくれたのはパティ、君だよ。ありがとう」


 トグサはパティに振り向いて微笑んだ。


「・・・。トグサさん」

「明日、私たちは巨大な盗賊団と戦う。だが決して負けない。必ず皆で生きてこの苦難を乗り越える」

「はい!」


 トグサはパティの好きな茶めっけのある笑顔を浮かべて言った。


「さぁ、パティとマックスは馬車の中で少しお休み」

「いいえ。私も皆の特訓に付き合います」

「パティ、マックス。君たちは明日の戦いのかなめだ。君たちが私たちの勝利のカギを握っているんだ。だから少しでも身体を休めて明日の戦いに望んでほしい」


 パティはトグサの言葉にしたがい、マックスと一緒に、イエーリの荷馬車の中に入った。中には価値があるとはとうてい思えないガラクタのような品物が積み上げられていた。パティが横になると、マックスがパティを抱き込むように横になった。


 明朝大きな戦いがある。パティたちは必ず勝たなければならない。パティはマックスの温かさを感じながら目をとじた。

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