第1話 アゲハと異世界 ⑵ 気持ち悪い
いや、それでも未知の生き物がこの世界にはたくさんいるはず。それに若返ったから自分で探しに行くこともできる。標本にして保管できないかもしれないけど、捕まえて観察することはできるはず。
そんな希望を抱きなんとか立ち上がった。都合悪い神様死ね、と心の中だけで思っとこう。
とりあえず町に入り情報を集めようと思った。これも異世界転移アニメでの常識?定番だよね、と思いながら町に入った。
町を歩く人は背中に武器を背負っていたり、かごを持っていたり、子供と手をつないでいたりと様々な人がいた。杖を持ってる人もいた。
どうやらこの世界には魔法があるようだ。やっぱりTheファンタジーだ。
露店には見たことがない食べ物が売っていた。なんの生き物のものだろうと興味を持ったが、私はお金を持っていないから、今はいいかと思い道を進んだ。
とりあえず冒険者ギルドにいこうと考えていた。なんとなくこれがアニメでの定番だから。たぶん。
杖を持った魔術師のような人、大きな斧を持ったガタイの良い大男、マントをつけた俊敏そうな人、聖職者が着ているような白い衣装をきた女性の4人が木でできた大きな建物に入っていくのが見えた。これもThe冒険者パーティーといった感じだ。
その建物の前までいくと知らない字がかかれていたが、冒険者ギルドと読めた。こういうところはご都合設定なんかい、なんて思ってないよ。神様標本セットよこせや!
中に入ると、さっき入っていった冒険者パーティーが受付で10個ほどの赤い石を出しているところだった。どこかで見たことがあるようなものだった。
周りには掲示板が並び、他の冒険者とおぼしき人達は掲示板を見たり、立ち話していたりした。
そんな周りを無視して、赤い石を出してる冒険者に近づくと受付との会話が聞こえてきた。知らない言語のはずなのに何を言っているか理解できた。
「今日も大量ですね、ボーンさん」
「ああ、今日も大量だ。やっぱりあの森の魔物は弱いからな!特にチョウなんて攻撃もしてこない。はっはっは!」
斧を持った大男のボーンは大きな声で笑いながら話した。受付嬢は苦笑いしていた。
受付の棚に出されていた赤い石の正体が分かった。あれはさっきみたアゲハの頭に付いていた石だ。気分が悪くなった。
私は大男に近づき話しかけた。
「すみません。その石以外はどうしたんですか?」
できる限り年齢に合わせて可愛らしく話した。
「ああ!そんなの燃やしたに決まってんだろ、お嬢ちゃん。それとここは子供が来ちゃいけないから帰りな」
「ありがとう、おじさん」
気持ち悪い
なんとか声を振り絞って、冒険者ギルドから出た。
気持ち悪い
私は路地裏に入り吐いた。
気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い……
胃に入ってる物をすべて吐き出して、やっと落ち着くことができた。
吐きそうにならなかったら、あの冒険者達を殴っていた。たとえ無理でも死ぬまで殴っていただろう。
気持ち悪い
この世界でも人間は自分たちが一番だと思っている。生き物を殺すのはギリギリ許せるが、殺したからには責任が生じる。それをただ燃やすだけなのは自分の方が上だと思ってる証拠だ。いや、やっぱり殺すのも許せない。なんで人間はこんなにもおろかなのだ。町を歩く人間が気持ち悪くてしょうがない。
だから私は地球にいるときはずっと一人でいた。人間と顔を合わせると殺したくなるから。
気持ち悪い
なぜ私は異世界に来て、人間も変わったと思ってしまったんだ。世界が変わったくらいでは人間の醜さは変わらない。そんなことは当たり前だ。
だから私はずっと人間を避けてきた。変わったと期待しても、その期待はただ崩れてしまうだけだから。誰も私のようにはなれない、研究者ですら私を裏切ってきたのだから。
気持ち悪い気持ち悪い
地球でもそうだった。人間は理由無く平気で生き物を殺す。それなのに野生の熊が人間を殺したりすると怒る。意味が分からない。なぜ自分たちが一番だと思える。
だから私は世間から距離を置いていた。愚かな人間のニュースを見たくない、聞きたくないから。生き物が悪者にされるのを許せなかったから。
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い
ふとさっき見たアゲハが思い浮かんだ。
そうか私は変化しなければいけないんだ。今までと同じではいけないんだ。
あのアゲハは幸運ではなく、私に変化することを促していたのか。
そうか、自分がこの世界に転移させられた理由が分かった。私は地球ではできなかったことをやるためにこの異世界に来たのだ。
この世界では絶対に人間が生き物の中で一番では無いのだと証明してみせる。いや、人間が最も弱い立場で搾取される立場なのだと証明する。これは私の使命だ。
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異世界で魔物大好き二度目の生物学者ライフ ~妾達魔物陣営が世界の中心でありんす~ @zetaranobe
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