第4話 ヒトと魔物 ⑴

 凜が初めに見て、入った町はハムスという名前の町だった。

 この町は数十年前まではクウガス王国に属している町だった。

 数十年前、各地に大きなドアが現われた。そのドアの先には異空間が広がっていて、ダンジョンと呼ばれるようになった。

 ダンジョンが生まれるまでは、クウガス王国はサウス大陸の西一帯を治める巨大国家だった。

 ダンジョンがなぜできたか、誰が作ったかはまだ知られていない。少なくともこのハムスという町では。

 昔は神を信仰し、神から杖を授からなければ魔法を使うことができなかった。

 しかし今では魔法は杖がなくても使うことができる。ダンジョンから魔法を使うためのマナが放出されているからだと言われている。そしてそのマナは個人差はあるが自分の体内に貯蔵することができ、それを利用して魔法が使える。

 もちろん魔法を使うためには勉強は必要だ。


 そしてダンジョンからは食料から鉱物まであらゆる資源を獲得できる。そのため国に属していなくても町だけで生活が成り立つようになった。そのため町はそれぞれ国から独立した。

 勝手に町が独立したら国から潰されるのではないか、他国から攻められるのではないか?と思うかもしれない。

 しかしクウガス王国では特に大きな戦争は起きなかった。

 理由は3つあり、1つめは多くの町にダンジョンが出現したことで国から独立する町がたくさんあり、国の戦力が低下したため。

 2つめは近隣の町の住人はダンジョンができた町に移動し、隣といってもかなり距離がある他のダンジョンが生まれた町と同盟関係を結んだことで町の戦力が増加したため。

 3つめはサンス大陸全体で似たような事が起き、他の国の戦力も低下したため。


 他にもダンジョンができたことで変わったことがある。それは町を覆う結界ができたことだ。

 この結界は人間も物質も通すが一つだけ通さないものがあった。

 それが魔物だ。

 ダンジョンの魔物が町の外にでないようにするためものではない。ダンジョン内にいる魔物はドアからは出られず、こっちの世界に来ることはできない。

 それではどこの魔物を通さないのかというと、町の外にいる魔物だ。

 ダンジョンができた同時期に森に魔物が現われるようになった。その魔物は町のダンジョンの中にいる魔物と見た目は違うが異形であることは同じだった。

 ハリスや、近隣の町では森一帯がダンジョンになったと考えられている。

 その魔物達は森から出ることができる。

 それを防ぐのが町を覆う結界だ。しかし外の魔物はとても弱い。



 そして面白いことに、ほぼ同時期に王都にも結界が張られた。

 王都にもダンジョンが出現したのかもしれない。

 なぜかもしれないという曖昧な表現をするかというと、王都にできた結界は町にできたものと異なったためだ。

 それならば入って確かめれば良いだけの話なのだが、王都の結界は人も物質も通さないのだ。そのためハリスにいる人間、同盟を結んでいる町の住人で王都がどうなっているのか知るものはいない。

 しかし、そんなことを気にしている人はほんの少しの物好き連中だけだ。

 なぜならば、ダンジョンができて独立したことで町は発展し、昔の王都よりも栄えてるのだから。誰も文句など言わない。

 もちろん発展した理由はダンジョンからとれる資源のおかげだ。


 大きなドアの中、ダンジョン内には魔物が存在する。魔物を倒すと、死体は残ることなく、魔石と何かしらの資源を落とす。そのなかに食料や鉱石が含まれている。

 強い魔物ほど良いドロップ品を出す。魔石も大きく、質が良くなる。

 魔物は自動的に復活すると考えられている。

 魔石はポーションを調合したり、武器を作ったりするのに必要。さらにエネルギー源にもなり、様々な用途がある。

 希にダンジョンには宝箱があったり、魔物からお宝が落ちたりする。

 そしてダンジョンを探索するのが冒険者である。ダンジョン探索だけが仕事ではないが、冒険者の主な仕事はダンジョン探索である。

 町ごとに少しの違いはあるが冒険者にはランクがあり下から、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、ゴッドに分かれている。


 ハムスでは最初は全員がブロンズから始まることになっている。

 そして、ブロンズの冒険者の仕事は外の魔物を倒すことだ。

 外の魔物はダンジョンと比べてとても弱い、弱すぎる。魔法が使えるなら絶対に負けることはないというレベルだ。

 身体強化を使えば魔物の攻撃はほとんど無効化できる。

 そしてダンジョン内の魔物と違い、外の魔物は倒しても消えることがない。その場に死体が残り、さらに魔石以外のドロップがない。魔石もダンジョンの物と比べて質が悪く、小さい。

 昔に死体を放置して問題になったため、今は倒した魔物の死体を燃やすことになっている。


 森のダンジョンは町にあるダンジョンといろいろ異なるため、10年くらい前に森の奥を探索する部隊が組織された。

 このときはシルバーやゴールドの冒険者が森に入りたくさんの魔物を狩った。そして、奥まで進み、奥にいた魔物も討伐した。

 奥にいた魔物もとても弱いことが分かった。さらに奥の魔物は手前にいる魔物よりも多少は強いくせに手に入る魔石は手前の物とほとんど変わらないことが分かり、最近では奥まで探索する冒険者はかなり減っている。


 ハリスや同盟を結んでいる町などは森などのドアではないダンジョンは魔物のレベルが弱すぎて、町のダンジョンとは少しだけ異なるのだと結論づけた。実際大量に魔物を狩った後も魔物は沸いているので町のダンジョンとしているし、魔石を落とすし、死体も資源と言えばそうなのであまり深く考える必要も無いとされた。


 それ以降、ハリスでは森のダンジョンはブロンズの冒険者が魔物という存在になれるためのとても簡単なダンジョンという認識になった。

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