第4話 ヒトと魔物 ⑵

 ハムスの町はもう夜で暗くなってた。

 そんな夜に冒険者ギルドではギルドマスターのロドリスと警察が話し合っていた。


「ロドリスさん、ということで外の調査は任せても大丈夫でしょうか」

「そうですな、外の魔物は弱いですが、冒険者以外は外に出てはいけないことになっていますから、私たち冒険者ギルドがやるしかないですな」


 小柄な警官ではなく、普通の大人の男性が小柄に見えるほど大きな男、ロドリスは体に見合わない穏やかな口調で話す。ロドリスの額には大きな傷があり、顔も厳つく見た目はとても怖い。

 ロドリスはハリスの冒険者ギルドのギルド長であり、数年前まではゴールドの冒険者だった。

 ハムスにはゴッドランクの冒険者はいない。ゴッドランクは人間とは思えない化け物に与えられる称号なので大陸に数えられるくらいしかいないと言われている。

 プラチナランクもゴッドほどではないが人間とは思えないレベルの冒険者を指す。

 そのためゴールドであるロドリスはかなり強いとされている。ほとんどの冒険者はシルバーランクである。


「それにしても子供が立て続けに攫われるとはな」

「そうですね、ロドリスさん。一昨日2人、昨日の夕方頃4人ですからね。それに攫われてる子供がとても小さいのも怖いですね」

「そうですな、一応さっきの目撃情報をもう一度聞いてもよろしいですかな」

「はい、町で買い物をしていた女性によると、その攫われた子供は黒のドレスを着た子と遊んでいたと言ってました。他にもそう発言する人がいたので間違いないと思います。町の人の発言をまとめると昨日と一昨日、同じ手順で子供を攫ったと思われます」


 警官は一呼吸してもう一度話し出す。


「そして、さっきの聞き込みで、昨日の夕方に町を出て行くのを見たと言ってる人がいました。私たちは昨日の聞き込みで犯人が少女を利用してることから、町の中に犯人がいると思い込んでしまい、門周辺の警備を甘くしてしまいました。私たちがしっかりしていたらこんなことにはならなかったのに」


 警官は唇を噛み、本当に悔しそうにしていた。


「慰めるつもりはありませんが、今回のことは警察の責任だけではないですな。私たち冒険者しか町の外に出てはいけないのだから、町の外の異変には私たち冒険者が気づかなくてはいけなかったですな」


 ハリスでは町の外に出られるのは冒険者、もしくは冒険者を護衛につけた場合だけとなっている。

 町の全員が学校で魔法を学ぶため、森の魔物くらいなら誰もが狩れるが、ダンジョンは何が起こるか分からないため研修を受けた冒険者のみが出られるようになっていた。


「それに最近私たちは気が抜けていたのもありますな。数年前から門番を無くしたのも原因の一つですな。これは町の失態ですな」

「それでも……」


 警官は拳を握りしめ、うつむいている。


「そうですな。町の失態だとしても、原因の多くは警察と冒険者にありますな。だからこれを受け止め、解決する責任がありますな、警官殿」

「はい。私たちは明日から警備体制を見直しつつ、犯人を捜します。それなので町の外はよろしくお願いします」


 警察は立ち上がり、頭を下げる。


「町の外は任せてくださいな」



 次の日の朝の冒険者ギルドには3組の冒険者が集められていた。私、ロドリスはその3組の前に立っていた。

 急なことで予定が合う冒険者が3組しかいなかったが、その一つのグループはゴールドに近いシルバーランクで最近期待の若手パーティーだ。もう一つのグループもそこそこのシルバーランクで実力がある。

 残り1組はブロンズだ。このグループは少し前までチンピラだったが、私が路地裏で絡まれたときに捕まえて冒険者ギルドに引っ張ってきて、更生させるために無理矢理冒険者にした。最近は真面目に森に魔石を取りに行ってる。

 今日も森に行くと言っていたから、今回の誘拐事件の捜査に協力するよう言った。


「みんな急な依頼だったのに集まってくれてありがとうな。それで依頼については紙で伝えたと思うが、一昨日とその前日に子供の誘拐事件があったのだが、その犯人は町の外に逃げた、もしくは潜伏していると思われるから、それを調査してくれな」


 いつも通り厳つい顔と巨体に似合わないゆったりと穏やかな声が冒険者ギルドに響く。


「分かりました、それにロドリスさんのお願いならいつでも飛んできますよ。それに誘拐なんて許せないです」


 腰に剣を提げた好青年は答えた。この子が最近期待の若手パーティー「ハリスポン」のリーダーのジャイル。ジャイルの後ろには仲間の3人が控えている。


「私たちも問題ないですよ。今日は軽くダンジョンに潜ろうとしていただけなので」


 紫色のローブを羽織って、顔くらいまである杖を持った40代の落ち着きのある魔術師が答える。仲間の3人も40代くらいでベテラン感あふれるパーティーだ。


「俺らは本当はいきたくないけどな!」


 チンピラーズのリーダーのボルは答える。後ろには頭にバンダナを巻いた2人の仲間がいる。

 もちろんチンピラーズがパーティーの名前ではない。

 パーティー名があるのは強いところや人気があるところなどで周りが勝手にパーティー名をつけて呼ばれている。


「まあいいだろ、ボル」


 私はボルの肩に手を回して、顔をのぞき込んだ。ボル達は一度路地裏でボコしているから私を恐れていて、言うことを聞いてくれる。

 このことを知っているから今日も誘った、というか強制的に呼びつけた。

 元チンピラで今まで迷惑をかけてきたのだからこれくらいはやってもらっても良いとは思っている。

 でも最近は真面目だから、優しくしたくなってしまう。


「お前らが犯人を見つけたら、シルバーにしてやるな。そうすればダンジョンに潜れるようになるな」


 これくらいの褒美があっても良いだろう。早く犯人を見つけないと誘拐された子が危険だしな。


「言ったな、ジジイ!」


 やっぱり褒美なしにしようかな。こいつらはずっと私のことをジジイと呼んでくる。私はギルド長になるために冒険者を引退したから、まだ40代なのに。

 周りから50代だと思われてるのは本人は知らないから秘密だ。希に60代だと思われてることも……


「まあ、とりあえず頑張ってくれな、みんな。私も他の冒険者に声かけとくから、明日には捜索メンバーを増やせるはずだからな」


 3パーティーはすぐに冒険者ギルドを出て、町の門を出て、草原に出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る