第4話 ヒトと魔物 ⑷
「ボスここに穴があるっす」
少し離れたところを歩いていたトスが声を上げた。
「穴?どれだ!」
トスの前の地面には自分たち大人では入れないが、子供なら入れそうな穴があった。覗いてみるが真っ暗で何も見えなかった。
「なんだこれ、こんなもん見たことあるか」
「ないっす」「ないです」
森でもこんな穴は見たことがなかった。
だからこれは魔物が作った物ではないと思った。魔物は時々草原にも出てくるが基本的には森にいる。
「リーダー、ここに犯人がいるんじゃないですか」
「そうだな、でも大人だとここに入れないぞ」
「魔法で小さくなれば入れるんじゃないっすか」
「そ、そうだな、俺も今そう思っていたところだ」
「さすがっす、リーダー」
もう犯人を見つけたも同然と思い、テンションが上がった。はやくここに入りたくてしょうがなかった。
「お前ら小さくなる魔法は使えるか?」
「使えないっす」「使えないです」
小さくなる魔法は上級魔法で俺らには使えない魔法だ。焦っていて忘れていた。
「他のパーティーに伝えますか、リーダー」
「いや、そしたら手柄を横取りされるだろ。もう弱い魔物狩りもやりたくないからここは俺らでやるぞ」
チンピラーズ達はこの中にいるのがその上級魔法を使える格上の相手なのかもしれないということはまったく考えていなかった。
「でも俺らじゃ入れたとしても動けないっすよ」
「小さくなるポーションを町で買って、入るぞ。ダンジョンに入れればすぐに稼げるはずだから、ポーションを買っても問題ないだろ」
「さすがっす、リーダー」
「じゃあ行くぞ」
チンピラーズは町で小さくなるポーションを買い、穴の前に戻ってきた。ちょうどお昼くらいだったので昼食も済ませてきた。
ポーション売り場でついでに追加の回復のポーションや食料なども買おうと思ったが、小さくなるポーションが思った以上に高く買うのを断念した。それでも元々一人一本は回復のポーションを持ってはいる。
これはロドリスに言われたことで常に一本は携帯している。この約束を守らなくて一発殴られたことがあるから。
「じゃあ飲むか」
ポーションを飲むと半分くらいの身長になり、子供サイズになった。初めての経験だったが特に違和感はなかった。
小さくなっただけで筋力やマナを体内にどれくらい貯めておけるかの魔力量は変わらないからかもしれない。
「それじゃあテリ明かりをつけろ」
「はい」
テリの顔付近には小さな火の玉が出現した。これは初級魔法のファイヤーボールをその場に留めて、明かり代わりにしている。
火の玉は穴の中にゆっくりと入っていくが底が見えなかった。
「どうしますか」
「俺らじゃ飛行魔法は使えないからな。飛び込んでギリギリのところで風魔法を使って着地するしかないな。じゃあトスから行け」
「はいっす、でも失敗したら……」
「大丈夫だ、怖いなら早めに風魔法を下に向かって使えば良い。そうしたら落ちる距離が減って死にはしない。あとはポーションを飲めば回復する。テリできるだけ下に火の玉を落としてトスが床を見えるようにしてやれ」
俺も怖かったから先にトスを行かせることにした。
「はい」
「じゃあ行くっす」
トスは穴に飛び込み、落ちていった。
「熱!イタッ」
と同時にボンという落ちる音が穴の外まで聞こえた。
火の玉にぶつかるのを完全に忘れていたが、生きてるようで良かった。あ、身体強化を使えばもっと安全だったと今頃気づいた。
「じゃあ次は俺が行く」
身体強化をして落ち、途中で風魔法を使って落下速度を落として着地した。すぐに明かりをともして、尻を押さえてうずくまってるトスのところに近づきポーションを飲ませた。
俺が真下に撃った風魔法がトスに当たったことは黙っておこう。ポーションで治ったから良いだろう。ごめん、トス。
「ありがとうっす、リーダー」
その後、テリも降りてきた。上を見るとかなりの深さだとわかった。
そして降り立った場所は少し開けていて、普通に立つことができた。
奥に繋がる道もあった。子供サイズでも立ったままは通れなそうだが、屈めば通れそうな広さだった。
「リーダー、この深さだと俺らじゃ戻れなくないですか」
「最悪、魔法で土を崩しながら登れば良いだろ。それに俺らは犯人を捕まえるんだから前に進むぞ」
「そうですね」
犯人を捕まえないで、ここから脱出することは選択肢にすらなかった。
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