第3話 ハチと取引 ⑺

 10メートルの木が並ぶ森の中の一つの木には直径2メートルくらいの少しいびつな球の形をした黒オレンジ色の巨大なハチの巣があった。近くの木にもすこし小さなサイズのハチの巣が数個あった。

 その巣はよく見ると6角形が並んだハニカム構造になっている。地球のハチの巣と構造が同じだ。ハニカム構造は軽量で強度が強く、様々な面で利用されている。やっぱり人間以外の生き物は偉大だと凜だったら言っただろう。

 どのハチの巣も木の葉によって周りからは見えないようになっていた。

 一番大きな巣の真ん中には働き蜂の2倍くらいのサイズがある35センチくらいの女王バチのクインがいた。


「女王様、アリの巣の場所を案内してもらいました」

「そうですか、ご苦労様ですわ」


 他の働き蜂とは違い、プーンという雑音と共に少し高く、上から来るような威厳ある声を出した。まるでお嬢様だ。

 そして働き蜂はそのお嬢様に使える使用人のようだ。


「明日はわたくしと働き蜂3匹で向かいますわ。あなたの他にあと2匹集めといてくださるかしら」

「はい」

「それではもう仕事に戻って良いですわよ」

「はい」


 働き蜂は昼間は働くが、夜は巣で休んでることが多い。

 この蜂の組織も夜はほとんどの蜂が巣で休んでいる。数匹だけは周りを警戒している。

 一つの巣には全ての蜂が入れないため、他にも巣を作っている。


「私もお供しますか、クイン様」

「そうですわね、ナトも一緒に行きましょう。私が心配でしょ」

「はい、クイン様」


 私は3年間この巣の女王をやっている。6回ほど魔石を食べている。

 ナトは私の側にずっと控えていて、働き蜂たちからの通信を伝えてくれる。ナトも私と同じく魔石を食べている。

 他の働き蜂はほとんどが卵から生まれた瞬間から働き始めて、2週間で死んでしまう。そのため働き蜂で長生きしているナトは特別なのだ。


「クイン様、本気で人間の言うことを信じてるのですか。人間は私たち魔物を魔石のためだけに狩ってきました。信用できるとは思いません」

「確かにそうですわね。でもクロヤマアリとは仲間になったそうじゃないですか」

「そ、それは……罠かもしれません」

「人間がアリの巣を見つけたとは考えにくいですわよ。そもそも私たち魔物について人間は何も知らないですわ。巣を作ってることも多分知らないですわ。もし偶然見つけたとしたらすぐに全滅させて魔石を回収されてるかしら」

「で、でも……」


 それでもナトは諦められないようだった。


「ナトはわたくしのことが大好きですわね」

「それは当たり前です。私たちの女王なのですから。だから、」

「それでも行きますわ。その人間を見定める必要がありますもの。もし罠で殺されたとしたら、それまでですわ。それにクロヤマアリが全滅させられたら、冒険者の標的が減ってわたくしたちも危険になりますわ」


 クインはいつも以上に強く断言した。


「そうですか。もし殺されそうになったら私が必死に守ります」

「そうですか、期待してますわ」



 次の日の朝早くに出発した。

「それでは行きますわよ、ナト、働き蜂」

「はい、クイン様」

「「はい、女王様」」


 クインとナト、3匹の働き蜂の計5匹は昨日凜と話したミツバチを先頭にアリの巣に向かった。

 道中はマメダルマコガネが糞を転がしているのを見かけただけ。

 他には特に何にも出会うことなくアリの巣の入り口に到着した。

 そこには可愛らしい少女と1匹のアリがいた。


「ごきげんよう、あなたが凜さんかしら。話しに聞いていた通り人間の子供なのですね」

「そうだよ、クイン。女王蜂はやっぱりほかの蜂よりも大きいんだね」


 凜という少女はただ可愛らしい普通の子にしか見えなかった。話し方もおちゃらけているし。本当に人間を捕まえてるとは思えない。それに人間が魔物と話せるのが未だに信じられない。

 でも昨日の電話では途中で話している人が変わったのかと思うほど鬼気迫る物を感じた。直接声を聞いたわけではないが、そんな話し方だった。


「ブーン」

「ナト名前くらいで怒らなくていいですわ」

「はい」

「やっぱり名前は良くなかった?」

 思ったよりも気遣いができるのかと思った。昨日はすぐに名前を呼び捨てで呼んでいたのに。

「問題ないですわ、凜さん」

「それじゃあ、クロヤマアリの女王アリのオルミーの場所に案内するね。私たちに付いてきて」

「分かったわ。みんな行きますわよ」

「「はい」」

「じゃあ案内アリさんよろしく」

「ギギギ」


 私たちは横穴に目を向けることなく最下層に降りた。


「ありがとう、案内アリさん。後は私とオルミーでだ丈夫だから、仕事に戻って」


 案内アリさんから降りて、オルミーが待つ部屋までミツバチ達を歩いて案内した。

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