第1話 アゲハと異世界 ⑷

「私の声が聞こえてるの?私を殺さないの?」

 アゲハから綺麗な声が聞こえた。


「殺さないよ!こんなに可愛いんだもん」

「本当?」

「当たり前だよ。私は人間以外の生き物を愛してるから!」


 自分がチョウと話していることなんて考えずに、力強く断言した。今の凜はとにかく目の前のナミアゲハを人間から保護したかった。あんな石だけを目的にする人間には決して渡したくなかった。

 保護するという考えの時点で自分の方がチョウよりも上だと思ってるじゃんと言われるかもしれないが、私は良いのだ。私は他の人間と違って生き物を愛してるから。それに私が生き物を殺すのは一番美しい状態で保管するため、もしくは生きるためのどちらか。私は生き物を愛している、だから殺しても全ての部位を無駄にしない。だから私は良いのだ。うん、私は良いのだ。大事なことだから二度心の中で言っておく。

 誰に説明してるんだろうと思いながら標本箱のアゲハの方を向いた。


「私はあなたを殺して石を奪おうとは思わない、絶対に!」

「ありがとう」

「というか何で私はあなたと話せてるの?」


 やっとチョウと話せていることに疑問を持った。


「え、私もこんな経験初めてで分からない。というか今頃?それに全然動けない」

「ああ、ごめん。今出すから」


 とても綺麗に保管できていたため逃がすのが惜しいと思いながらも標本箱を開けるとナミアゲハが出てきた。というか今頃だけど死んでいなかったのかと思った。死体と話していたとは思わないけど、標本箱に生きた昆虫がいるのもすごい違和感だった。

 同時に足下に落ちていた空の標本箱は無くなり、アゲハが入っていた標本箱は元の小さいサイズに戻った。よく分からないが今は目の前のアゲハの方が気になった。


「えっと、私の声聞こえてる?」


 目の前を飛んでいるアゲハに恐る恐る話しかけてみた。周りから見たらチョウに話しかける可哀想なヤツだ。

 地球にいるときは飼っている昆虫や動物によく話しかけていたが、いざ話せるかもと思ったらいつも通り話せなかった。すこしだけ心配になった。さっきのは私がチョウと話した過ぎて聞こえた幻聴だったのではと。


「聞こえてるよ」

「ふっふふ、ふっふっふふふ!」


 ヤバい研究者独特の笑い方だ。「ふ」の前に小さい「ぬ」が入ってるような笑い方。

 一瞬で心配なんて消え去った。


「大丈夫?」

「ああ、ごめん。ついにチョウと話せたと思ったら嬉しくて」

「私は大丈夫だけど、これからどうするの?」

「えっと、私はこれから一番偉い生き物が人間ではないということを証明するために行動しようと思ってるの」

「どういうこと?」

「人間はあなた達を人間より下等生物だと思ってるの。だから平気でその石を手に入れるためだけの理由で殺して、残りの部位は燃やしたりする。私はそれが許せない。私は人間以外の生き物が大好きで人間は嫌い。だから人間より他の生き物が上だと証明する。まだ方法とかは決まった無いんだけど」


 自分で話していて計画性が全くないなと思った。でもやると決めたからにはやる。


「そうなの……」


 アゲハはなにか悩んでいるようだった。表情の変化などが見えるわけではないけど、声のトーンでそんな気がした。

 ナミアゲハが話すまで待った。


「私もそれに協力させてくれない?私たちナミアゲハは人間に何も抵抗できないまま死ぬか殺される。それは嫌だから」

「名前ってナミアゲハなの?」


 凜は目の前のチョウの決断よりも名前が地球にいたものと同じだったことに驚いた。


「え、ええそうよ。何か変?それよりも仲間にしてくれるの?」

「あ、うん、お願いします。それと聞きたいんだけど蛹の期間ってどれくらいのなの?それとそれと……」


 そこからこの世界のナミアゲハについて聞いた。ナミアゲハはあきれながらも綺麗な声で話してくれた。その結果大きさと頭に付いている赤い石以外に違いはほとんど無いことが分かった。


「それじゃあ、その赤い石って何?なんで人間はそれを集めてるの?」

「なんで人間のあなたが知らないのよ。まあいいけど、これは魔石と言って魔力が含まれているの。この魔石を持ってるから私たちは魔物と呼ばれてるの。あと一応言っておくと魔物の言葉は普通人間は聞き取れないのよ」

「たしかにさっきの冒険者も魔物とかって言っていたな。あと魔物って同じ言語を話すって事?」

「たぶんそうよ」

「本当?っていうことは私魔物と話せるの!」

「魔物と話せて喜ぶのはあなたくらいでしょうね」

「あれ?その魔石を持ってるってことは魔法が使えるの?」

「ドラゴンとかは何種類も使えるとかって聞いたことがあるけど普通の魔物は1つだけ魔法が使えるわよ」

「うん?じゃあなんであなたは人間に抵抗しないの?」


 たしか冒険者の男がチョウは何もしてこないと言っていたし、ナミアゲハ自信も抵抗できないと言っていたけど。


「えっと、それは私たちナミアゲハの魔法は、いや、やっぱり何でも無いわ。普通に人間の方が強いからよ。ドラゴンとかの一部を除いたら普通に人間の方が強いわよ。ところでこれからどうするの?」


 話を変えるかのように早口になった。


「え?特に決めてないけど人間の町には人間がたくさんいて気持ち悪いから行きたくないし、ナミアゲハさんも嫌でしょ。というかナミアゲハってこの世界では種族名だよね。なんか名前とか無いの?」

「無いわよ」

「じゃあナミちゃんって呼んで良い?」

「なんか適当じゃ無い?別に良いけど」

「じゃあナミちゃんって呼ぶね。あと私のことは凜って呼んで。これからはあの森とかで暮らすのはどうかな?」


 奥に見えている森を指しながらナミに話した。


「いいけど魔物がたくさんいて危ないわよ」

「魔物がたくさん!めっちゃいいじゃん、早く行こう、ナミちゃん!」

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