第1話 アゲハと異世界 ⑸

「魔物がたくさん!めっちゃいいじゃん、早く行こう、ナミちゃん!」


 森に向かって膝くらいまで伸びた草原を一直線に走った。ため息のような物を付きながらナミも付いてきてくれた。

 1分くらい走ったところで力尽き、平原に座って休憩した。想像以上に森まで距離がある。たぶん2キロくらいはある。


「ハァハァ、もう無理、死ぬ」

「森はまだまだ先よ。これで本当に私たちを人間より上の存在にできるの?心配になってきたわ」


 明るい声でからかうようにナミは凜の頭の周辺を飛びながら話しかけてくる。

 呼吸を整えてから立ち上がり、今度は普通に歩いて森を目指す。私の速さに合わせてナミは顔あたりの高さで付いてくる。ペットみたいで可愛い。

 地球にいたときは蝶の首にひもをつけて散歩みたいな事をしたなぁ。なんか今思うと可哀想だけど……うん、考えるのをやめよう。


「ところでさ魔物同士って仲が良かったりするの?」

「同じ種族だったら協力することもあるけど、他種族とはほとんど協力しないわよ」

「どうして?協力した方が人間に勝てそうじゃん」

「まあ協力すれば勝てる可能性は上がるかもしれないけど、それでもほとんど勝てないわ。私たちの魔法は人間と比べるととても弱いもの。それに私たち魔物は時々魔力を補給しないと死ぬの。だから他の魔物を殺して寿命を延ばすこともあるから、あまり仲良くはしないかな。それに、」

「え、……」


 理解できなかった、いや理解したくなかった。つまり、ナミアゲハは……


「そうよ、私たちナミアゲハは人間どころか魔物の中でも最弱レベルだから寿命が2ヶ月もないのよ。羽が生えたこの姿になってからは約2週間しか生きられないわ。まあさっきも寿命が短いとはいったけど」


 地球のナミアゲハと寿命が同じだと思っていたが、こっちのナミアゲハの寿命とは意味が異なった。こっちでは魔石を食べれば寿命を延ばせる。

 凜の足は止まった。


「えっと、……」


 何も言うことができなかった。寿命とは生物の構造上仕方ないことかと思っていたが、この世界では違った。目の前のナミの寿命を延ばしたいと思ったが、そしたら他の魔物を犠牲にすることになる。


「じゃあ、私を食べてよ。人間も魔法を使えると言うことは、人間を食べても寿命を延ばせるよね」

「それはできないわ」

「なんで?人間には魔物の寿命を延ばせないの?」

「いや、人間は魔物よりも多くの魔力を持ってるから、一気に寿命を延ばせるわ」

「じゃあ、なんで!私はいいの、この世界での人生は私にとっておまけみたいな物だから。あなた達、人間じゃない生き物のためなら死んでも良いの!」


 少し強い口調でナミに言った。

 もう前世と言って良いか分からないが、地球で70年も自分がしたいことをやれて満足していた。さっき使命とか言ったけど、それも目の前の生き物を見捨ててやることではない。


「あなたは普通の人間とは違う。私を殺さないで優しくしてくれた。私はあなたがこの世界を変えてくれるかもと思ってるもの。まあ少し走ったくらいで死ぬとかいってるから無理かもだけど」


 真剣な声で話し、最後の方は明るい声でからかってくる。

 ナミが話を変えたがってることは分かったけど、どうしてもナミ、魔物のために何かしたかったが、何も思いつかなかった。


「でも……」

「いいのよ。それなら人間を倒せるように協力してよ」

「う、……うん、絶対に人間を倒してナミちゃんの寿命延ばすから!」

「ほんの少しだけ期待しておくわ」


 ナミの声は一段と綺麗に聞こえ、表情の変化は見ることができないが微笑んでいるように見えた。


 そんなことをナミと話していると、森の方から男3人組が歩いてきた。男達の声は大きくて話が聞こえた。

 リーダーのような大きな男がジャラジャラと布袋を振りながら話す。


「今日は蟻がいっぱい出てきてくれて助かったな!」

「そうだな。あいつら背をむけて逃げていくだけだから狩りやすいったらないわ」

「それな」


 2人の部下のようなバンダナを頭に巻いた男達が笑いながら肯定する。


「でも後始末がめんどいっす。キモいし」

「そうなんだよな。でも燃やさないとギルドから怒られますもんね」

「まあいいだろ、実際燃やすだけでこんなに魔石が手に入ってるようなもんなんだから」

「そう言われるとそうなんすけど。クネクネ動くのとか未だになれないっす」

「俺もです。というかリーダーはほとんど後始末手伝ってくれないじゃないですか」

「ハッハハ、俺はリーダーだから。それにこれもシルバーランクに上がるまでだ」

「そうですね」


 リーダーの大男とバンダナを巻いた部下2人は笑う。

 私は許せなかった。あんなクズたちが生き物について語るのが、魔石のためだけに生き物を殺すのが、生き物の寿命を延ばす魔石を持ってるのが、生きているのが許せなかった。

 それに気持ち悪かった、男達の存在自体が。

 私ではあの男達勝てないのは分かっていたが行動せずにはいられなかった。隣にいるナミちゃんのために。せめて魔石だけは取り戻したかった。

 取り戻すと言っても元々私の物では無く、もう死んでしまった魔物達のものだけど、せめてあの魔石は魔物達が寿命を延ばすために使われるべきだと思った。

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