第1話 アゲハと異世界 ⑹

 気持ち悪い、許さない!

 気づくと魔石が入っていると思われる布袋を持った大男に向かって走り出していた。後ろからナミの声が聞こえた気がしたが、止まらずに突っ込んだ。男達が私に気づいたが、そんなことは気にすること無く突っ込み、布袋を取る事に成功した。

 その袋を持って森に逃げ込もうと走ろうとしたとき、後ろから何か硬い物で殴られ、その場で転がった。

「イタッ!」

「おい!お嬢ちゃん何してるか分かってるのか?」

 リーダーらしき大きな男に上から睨みつけられ、布袋をギュッと握った。背中がジンジンと痛む。

 地球にいるとき未知の生き物を見つけるために危険な場所に行き、危険な生き物にも遭遇してきたが、顔に大きな傷があり眼光が鋭い、生き物を殺すことを仕事にしている冒険者の威圧感には恐怖を感じた。

 それでもナミのために、魔物のためにこの魔石だけは渡すわけにはいかない。これは人間の物では無い。私が守らなくては、これが私のこの世界での使命だから。

 たとえ私が死んだとしても、魔物が私を食べれば寿命を延ばせる。

 そんなことを考えれば目の前の男が少し怖くなくなった。できることをしよう。失敗しても魔物のためにはなる。

 森まで逃げ切ればなんとか隠れたりしてやり過ごせるはず。

 後ろをチラッとみれば森までは300メートルくらいだった。

 なんとかなる、なんとかする。

 やることが決まったら、さらに恐怖心が減った。足にも力が入る。

「すみません、もうしないので許してください。どうしても母の病気を治すためにお金が必要だったんです」

 男に懇願するように上目遣いで見つめながら、背中の後ろで左手で地面の土を握りしめた。

「まあ、いいだろ。とりあえずその袋をこっちに渡せ!」

「いいんすか、リーダー」

 目の前の男は後ろの仲間の方を向く。

「別に良いだろ、子供に付き合ってる暇はねえだろ!それに子供を脅したらあいつになんて言われるか分からん」

「そうっすね、あのジジイに殴られるのは勘弁ですね」

「そうですね、これ以上ブロンズの期間を延ばされても困りますね」

「そうだろ」

「さすがっす、リーダー」

 リーダーと呼ばれた男が後ろの男から目を離しこっちを見た瞬間、左手に握った土を顔めがけて放り、立ち上がり森に向かって走った。

「ウベッ、ペッ、ペッ。クソガキ!」

 後ろからは土を吐く音と怒鳴り声が聞こえてきたが、振り返ること無く必死に走った。

 残り250メートル、このまま走ればいける!

「危ない、凜!」

 後ろからナミの今までの綺麗な声とは違った、焦ったような声が聞こえてきた。初めて名前を呼ばれたと思う暇もなかった。

 振り返った時には全てが遅かった。目の前にはバランスボールくらいの大きな火の弾があった。私は避けることなんてできずに目をつむった途端、体に隕石が降ってきたのかというほどの衝撃でふっとばされ、意識を失った。

 


 私の異世界生活は1日目で幕を閉じた。なにも魔物のためにしてあげることができなかった。せめて私を食べて寿命を延ばしてほしいと意識を失う寸前に思った。

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