第2話 アリと住処 ⑸
部屋の奥には一段高くなった部分があり、私よりも大きなもしくは同じくらいのアリがいた。そのアリの真ん中のおなかは特に大きくなっていた。子供を唯一埋める女王アリの特徴だ。
「誰だ、お前は!働き蟻おまえは何をしている」
女王アリも案内してくれたアリと同じくギギギと音を立てながら話した。威厳があった。
「すみません、この人間が私たちの味方をすると言ったので連れてきました」
「私は
「人間が何を言っている」
「私は人間が嫌いです。私は人間が自分たちを一番偉い生き物だと思ってる現状を変えて、魔物が一番だと証明したいと思っています。信じてくれないならば私を食べて寿命を延ばしてもらってもいいです」
真剣な声で強く断言した。もちろん殺される気は無い。ナミちゃんのためにも魔物の地位を上げるまでは死ねない。でも死んでも良いくらいの覚悟はある。
「なぜ魔物の寿命について知っている?」
腰あたりのポケットにしまっていたナミが入った標本箱を出し、心の中で大きくなれと思うと、ナミがもとのサイズに戻った。
「私はこのナミアゲハと友達になりました。それで魔物の寿命について教えてもらいました。しかし……」
また悲しみがこみ上げてきたが、下唇をかみ、標本箱を強く握って続ける。
「私の力が足りなくて、友達を失ってしまいました」
泣きそうになるが泣かない。
「もうこんなことは起こしたくない。だから私は魔物と協力して人間を狩り、魔物が自由に生きられる世界を作る。そのために協力してほしい」
女王アリは悩んでいるのか部屋の中が静かになる。
「わ、分かった。しかしまだお前を信用したのでは無い。私たちの問題を解決してくれたら信用しよう」
「分かった。ありがとう。ところであなたに名前はあるの?」
「私はオルミーと名乗ってる」
確かどこかの言語でアリを表していた気がするけど、まあこの世界ではどうでもいいか。
「じゃあオルミーって呼んでも良い?」
「まずは私たちの問題を解決してもらう。そしたら良いだろう」
「分かったよ、オルミー」
「お前話聞いていたか」
聞いてるけど名前があるなら呼ぶでしょ。だって早く仲良くなりたいし。
「聞いてたよ、オルミー」
「もういい。私たちは今食糧不足なのだ。それを解決してくれ」
「それは寿命では無くて生きるための食べ物が不足してるって事でいいの?」
「そうだ」
「分かった。でもその前にあなた達のこと教えてもらって良い?」
「別に構わない」
「あなた達の種族は?」
「クロヤマアリ」
やっぱりそうか。胸部あたりがすこしへこんでいたからそうかとは思っていたんだよね。
ナミアゲハもそうだけどこの世界は地球にいた昆虫と同じ名前が付いているのか?
『クロヤマアリ(日本でよく見る蟻)
胸部中央部分がへこむ。
乾いた日当たりが良い地面に巣を作る。食料は昆虫の死骸や蜜。
働きアリ(5ミリ)、女王アリ(10ミリで羽がある)、オスアリ(10ミリで羽がある)』
「ということは食べ物は蜜系のものか動物の死骸とかでいいの?」
「ああ、そうだ。よく知ってるな。でも動物とはなんだ?」
「ああ、動物じゃなくて魔物。ところで今までは何を主に食べていたの?」
この世界には動物はいないのか?まあ人間でない生き物がいるのならその者たちのために頑張るから良いのだが。
「花の蜜だ。魔物は私達たちでは狩ることができない」
「あっ、そういえばクロヤマアリが使える魔法って何なの?」
「私は子供を産むことで、私以外の働き蟻は穴を掘ることができる」
「え、それだけ?」
「そうだが」
いやそれだけとかどうやって今まで魔法があるこの世界で生きてきたんだ?ナミアゲハもそうだけど生きてこられたの奇跡じゃね。
というかアリのその能力地球のアリでも持ってるわ。
声に出そうになったが我慢した。さすがにこれを言うのは失礼だと思った。
でもこの洞窟が崩れないのはその魔法のおかげなのかな。そうなら少しは役に立ってるのか?いや、これは異世界だから関係ないか?
「もしかして自分より50倍近いものを持てたりする?」
地球のアリは自分よりも50倍近く重い物を持てるほどの昆虫界きっての力持ちなのだ。だからあの異世界サイズのアリがそれくらい力があればと一縷の望みをかけて聞いてみた。
「いや、そんな力あるはずないだろ。お前はバカか」
うん、知ってた。だってそんなに力があったら1トンくらい力があること意味するもん、そしたらいくら人間の魔法が強いと言ってもごり押しできるよね。やっぱりこの世界の神死ね!
「まあなんとなく分かった。あとは私が信用できると思ったら、いろいろと教えて」
「それでは頼む」
「任せて!」
とりあえず蜜を探すために外に出ようと思い、来た道を戻って縦穴に着いた。
「これどうやって地上まで上ろう。私ここから出られなくない?」
自信満々に返事をしてすぐに、諦めそうになっていたところにギギギと音を立てて案内をしてくれたアリが近づいてきた。
「上まで連れて行く。女王様に言われた」
さすが働きアリだな、女王に言われたら嫌いな人間の私も運ぶのかと思いながらアリの上にまたがった。
蜘蛛に乗ることは想像したことあるけど、まさかアリに乗ることになるとは。
アリの背中、背中と言って良いのか分からないが、はゴツゴツとしていてとても頑丈だった。地球のアリも頑丈だったけど小さすぎて弱々しかった。でも今乗っているアリはたくましく安心感があった。
というか自分より重い私を運べると言うことは一応力持ちではあるのか。
そんなことを考えていると地上に出た。
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