第2話 アリと住処 ⑷

 森に入って少し歩くと、3つの楕円のような丸い体が縦長に繋がった黒い生き物がいた。そしてその体を繋ぐ部分は細くくびれていた。まさに蟻だったがサイズは異世界サイズで頭には赤い石が埋まっていた。頭からお尻までで60センチくらいあった。私の身長は1メートルちょっとだから、自分の半分くらいのサイズがあった。


「アリだー!めっちゃ大きい!」


 ナミアゲハを見たとき並に興奮していた。

 アリは一瞬こっちを振り向いたが一目散に逃げようと方向転回した。

 冒険者も言っていたがアリは攻撃しようとせず逃げようとした。こんな小さな子供からも逃げようとするくらい弱いのか。まあ私は魔法とか使えないから襲ってきたらなにもできないんだけど。


「待って!」


 標本箱を持った右手を伸ばすと目の前にいたアリが吸い込まれて、標本箱は60センチのアリが収まるくらい大きなサイズになった。そして空の小さな標本箱が出てきた。

 標本箱が大きくなりすぎて手で持っていられず、地面にドスンと落ちた。今回も針などがまったくないのにアリは空中で固定され綺麗な標本となった。


「アリさん、聞こえますか?私はあなたを殺したりはしません」


 ナミの話では魔物が話す言語は同じはずなのでこのアリとも話すことができるはずなのだが、今回も緊張した。


「なんで人間が魔物と話せる?」


 ギギギという雑音とともにアリの声が聞こえた。

 良かった、話せるみたい。


「私も分からないんだけど、なぜか話せるの。私は魔物のために行動したいと思ってるんだけど協力してくれない」

「信用できない。人間は危険」

「うーん、そう言われると困るんだけど、どうしたら信じてくれる?」


 しばらくの間ギギギとだけ音が出る。


「働きアリの自分では判断できない。女王のところに連れて行く」


 働きアリとかいるんだ。アリも地球にいたときとほとんど生態一緒なのかな?


「じゃあそれでお願いします。その前に少しだけ観察しても良い?」

「観察?自分は仕事があり時間が無い。早く解放して女王様のところ行く」


 さすが勤勉さを象徴する昆虫だと思った。


「ごめん」


 標本箱を開けてアリを解放した。


「それじゃあ案内してくれる?」

「了解」


 アリは迷うそぶりをすることなくどんどんと進んでいく。アリが通った後ろを歩いているため障害物がほとんど無く付いていくのが楽だった。

 これが地球にいた小さなアリだったら地獄だったなぁと考えながら付いていった。

 そういえば当たり前のように進んでいくから気づかなかったけど異世界のアリも道を覚えるのは得意なようだ。

 アリの複眼は特殊な光を見ることができて太陽が雲に隠れたりしても方角を認識できる。巣からどれだけ移動したか覚えることができる個体もいる。この世界ではどうか分からないけど。

 300メートルくらい歩いたところでアリの巣に続くと思われる穴に着いた。


「ここから女王のところに行くことができる」

「わかった」


 アリの巣に入れるか不安に思っていたが、子供の姿であることと異世界の巨大なアリのおかげで女王のところに繋がる穴に入ることができた。大人だったら入れなかったかもしれない。私は大人になっても小さかったから大丈夫かもしれないが。

 アリの巣は基本的に縦に伸びているため足を広げ必死に両脇の土壁にしがみつくようにしたが、穴が綺麗に掘ってあるせいかほとんど滑り落ちるような形になってしまった。だけど、たまあに斜めに掘られている部分があったおかげで落下死することがなくて良かった。さすがにアリの巣に自分から入って落下死したとあってはナミにあわせる顔がない。

 降りていく途中で横に繋がる道があった。たぶん食べ物を保管する部屋、子供(幼虫)の世話をする部屋、ゴミ置き場などに繋がってるのだろう。たぶん。

 案内してくれるアリは途中の部屋には目もくれずどんどんと下に行くので、私も必死に降りた。


 ついに一番下まで到着した。どれくらい降りたかは正確には分からないが途中に6つくらいの横道があり、4階分くらいあったから10メートルくらいはあるだろう。

 周りはとても暗くてほとんど何も見えなかった。どうしようかと思っていたら空の標本箱が光った。なぜ?と疑問がわいたが虫をかっこよく保管するために光る標本箱も存在するから、まあそんなやつだろうと思い、懐中電灯の代わりにして進んだ。

 さらに奥へと進んでいった。降りている途中で見た横道の広さは70センチくらいのアリが通れる幅だったが、最下層のここは私が普通に歩けるほど広かった。土の洞窟といった感じだった。

 地球のアリの巣は穴がとても小さいため崩れることがないが、ここの巣も周りの土が崩れてくることは無いと思わせるほどしっかりしていた。理由はまったく分からないけど、異世界だからだろう。

 少し歩くと開けた空間に出た。

 私が暮らしていたぼろアパートよりも広い部屋だった。ほとんど研究室にこもっていて家になんて帰ってなかったけど。

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