第2話 アリと住処 ⑶

 森の手前の草原で私は座っている。

 まず疑問に思ったのはなぜ自分が生きているかだ。確かにすごい衝撃を受けたし、痛みも感じた。たぶん死んだはず。死んだ経験が無いから死んだかは断定できないけど。

 でも体を見ても大きな傷は見当たらないし、服も汚れているだけでボロボロになっていない。脚にちょっとした傷があるが、これはナミを探していたときに負ったものだ。確かに私は火の弾に当たった。それなのに服も焦げたりしていない。

 焦げていない?

 え、………………

 凜は嫌な予感がして、標本箱を見た。

 標本箱の中にいるナミを見ると胸あたりが焦げるように黒くなっていた。何度も見たから焦げていることは分かっていた。でも……

 また泣きそうになった。どうして私のために、どうして会ったばかり人のために、どうしてクズな人間のために、といろいろ思ったが、もう後悔するのはやめた、立ち止まらないと決めたのだ。

 目元を手で拭いた。もう魔物が人間より上だと証明するまでは涙は流さない。

 多分だがナミアゲハの魔法は対象に降りかかった災いを自分が身代わりになることで肩代わりするようなものだと分かった。

 アゲハは復活の象徴でもあるから、ナミアゲハの魔法がそれに関することでも不思議はない。それにナミは魔法を聞いたときためらって教えてくれなかったことと人間に抵抗できない魔法を考えると当たっていそうだ。

 つまりナミが私が死んだのを肩代わりして、私が復活したのだろう。

 

『アゲハの死骸を見たときは自分に降りかかるはずの災いの身代わりとなってくれたとも言われている』

 

 ということはさっきナミがオレンジ色になったのもそういうことなのか。

 オレンジのアゲハは励ましを意味していて、私たちに勇気や元気を与えてくれる。

「本当にありがとう、ナミちゃん」

 標本箱を胸に抱きお礼をした。

 もともと魔物を人間より上だと証明する気ではいたけど、ナミが私を守り、生かしてくれたと分かると、私は魔物のために行動しなければいけないとより強く思う。これはもう私だけの使命ではなくなった。


 改めてナミに救われたことを理解した凜は魔物のために行動することをより強く誓い、立ち上がった。

 まずは森に行き仲間を集めなければいけない。私だけでは何もできない。

 さっきまで自分の無力さに絶望していたが、今は力が無いことを悲観するのではなく、魔物達と協力して魔物の地位を上げていくことができるという希望に満ちていた。

「そういえばこの標本箱は生き物を捕まえたら新しいのが出てくるけど、個数制限とかあるのか?」

 毎回当然のように出てくる空の標本箱に目を向ける。

 もし無限に出てくるならたくさんの生き物を標本にできる。そう考えるととても気分が揚がる。

 でも、この世界ではコミュニケーションとれるからわざわざ捕まえる必要ないのか?

 まあとりあえずは、考えなくても良いか。

「そんなことより、これを持ち歩くのはさすがに大変だな」

 凜は手に持ってる20センチのナミが入ってる大きな標本箱を見ていた。

 もちろん捨てる気はない。当たり前だ。初めての友達で命の恩人なのだから。

「小さくなれ!さすがにならない……なった!」

 標本箱はポケットに入るくらい小さくなった。箱を振ってみるが中のナミは全く動かないように固定されていた。

「大きくなれ!」

 ナミの元のサイズに戻った。これ以上は大きくできないようだ。

 たまには神様やるじゃん!と心の中で少し褒めといた。

 いや、でも魔物を弱く作ったのも神かと思ったら、やっぱりクソだと思った。神様死ね!ナミちゃんを復活くらいさせろ!

「小さくなれ!よし行くか!」

 ナミが入った標本箱と空の標本箱をゴスロリ衣装のポケットに入れて森に向かって歩き始めた。


 

 森の入り口に着くと、10メートル以上の木が並びすごい圧迫感を感じた。さらに遠くにはもっと大きな木が並んでいた。

 森の中は太陽の光が遮られ薄暗くて不気味だが、懐かしい空気感だった。地球にいたときに新種の生き物を見つけるために一人でアマゾンを探検したときのようだ。

 その時は何度も死にそうになった。でもたくさんの生き物の中で死ねるのも悪くないかという気持ちだった。

 これから未知の生き物、この世界では魔物と呼ばれる生物に会えると思うと楽しみでしょうがない。

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