第2話 アリと住処 ⑹
もともと木で太陽が遮られていたので暗かったが、今はさらに暗かった。もうすぐ夜になりそうだと思い、今日はもう無理だなと判断した。
「アリさん、もう一回オルミーのとこに連れて行って、お願い」
少し可愛らしくお願いしてみた。まだ1日目だというのにこの小さな子供に慣れつつあった。いやこの子供も私だから当然と言えばそうなのだが。
さっき大泣きしたから子供っぽくいることに抵抗がなくなったのかもしれない。それに使える物は使っていかないとこの世界は変えられないし、子供であることを考えてる暇もない。
「了解。女王様にお前のいうことを聞けと言われている。ギギギ」
なんか雑音というか、ギギギと声で発していたような気がする。まさか機嫌が悪いなんて事無いよね。うん、たぶんない……
表情は特に変わってないと思う。というか変わっても気づかない気がする。
登ったばかりの縦穴を再びアリの背中に乗り下った。そしてオルミーがいる部屋に戻ってきた。
「なんだ、まだ何か聞きたいことでもあるのか」
「いや、暗くなってきたからここで夜を明かしても良い、オルミー?」
「だから名前を呼ぶな」
「お願い、オルミー」
手を合わせて上目遣いで見つめた。さっきの案内アリさんが嫌がったのは可愛さが足りなかったからだと考えさらに可愛い感じでお願いした。
「ああ、もう好きにしろ」
やっぱり可愛さが大事なのか。
そんなことを思いながら硬い土の上で寝転んだ。いろんなところに探検に行き、野宿なども平気でしていた凜にとっては全く不快感は無かった。むしろ未知の生き物と同じ空間で寝られて幸せだった。
標本箱の光は消えろと思ったら消えた。意外と便利で神に感謝しそうになるが、やっぱり人間を作った神はゴミだ。死ね、神。
いろいろあった凜の異世界生活1日目は幕を閉じた。
ギギギという音が聞こえて目覚めた。アリの巣の中にいて真っ暗なので今が何時なのかは分からない。
少し刺激臭がした。
『アリはフェロモンと呼ばれる臭い物質を作って情報共有をする』
とりあえず明るくなれと思ったら、標本箱が懐中電灯のように光った。未だにこの原理が分からない。もしかしたらこれが私が使える魔法なのかもしれない。
照らされて周りの状況が少しずつ分かってきた。
10匹以上の異世界サイズのアリが私を囲っていた。
「うわっ、こんなにたくさんの魔物!……良い、朝からこんなに生き物に囲まれてるとか天国だ!」
凜の表情は嬉しさのあまりとろけていた。
「なんでこいつ話してる」
「人間敵」
「女王様のために排除」
凜が幸せをかみしめてる周りでは凜を排除しようと働き蟻たちが騒いでいた。
「騒がしいぞ、お前ら」
女王アリの一声で騒がしかったアリたちは一斉に黙った。天国をポワポワと浮かんでいた凜も現実に引き戻された。
「そいつは人間だが敵では無い。仕事に戻れ!」
働き蟻たちは縦穴の方へ続々と進んでいった。
ああ、私の天国が……
「お前もそろそろ働け、私たちの味方と証明したいなら。ハァ」
「分かったよ、オルミー。それじゃあ行ってくるね。今日も案内アリさんよろしくね」
隣でギギギと音を立てている昨日の働き蟻に声をかけて縦穴に向かった。いつの間にか呼び名は案内アリさんになった。
案内アリさんに乗っかり地上に出た。
「案内アリさんこのまま乗っかったままでも良い?」
乗り心地が良いのとアリにずっと触れていられるからこのままでいたかった。
「いい。女王様の命令」
「じゃあお願い」
頭部をなでながら話したら、ギギギと返された。なんか昨日から嫌われてる気がする。
「とりあえずこの辺を歩いてみてくれる」
「了解」
そういえばクロヤマアリの巣って日当たりがいいところにあるはずだけど、こんな森の中にあるのか。地球とは違うところもあるのかぁなどと考えながら周りを見て回った。
森の中には花はほとんど生えていなかった。
「今まではどこから花の蜜を取ってきてたの?」
「数年前まではここら辺に生えていた。その花から蜜を取っていたらしい」
「今は全然無いけど、なんかあったの?」
「分からない、でも10年前くらいに人間による大規模な探索が行われたと聞いたことがある。関係があるかは分からない」
やっぱりあのクズたちが原因か。アリもそうだが昆虫などがいないと土壌が細くなったり、植物が害虫から守られなくなり、育たなくなる。多分だが人間が魔物を狩るようになって生態系が崩れつつあるのだろう。
本当に人間は気持ち悪い生き物だ。
「じゃあ木の蜜とかは取らないの?」
「木の蜜はカブトムシやクワガタ、ハチが集まり私たちではとれないどころか殺されて食料にされる」
カブトムシとかもいるの!はやく仲間にしないと、というより観察したい!
興奮した気持ちを抑える。
「そうなると森は無理そうだから平原に出ようか」
「ギギギ」
ついに返事がギギギになってしまった。なんで?嫌われること今は何もしてないよね。頭部をずっとなでてる、隅から隅まで念入りに触ってるだけだよ。
森から出るととても明るく目を細めた。まだ一日も経っていないが久しぶりに日の光に当たった気がした。少し先には昨日入った町が見えて、気分が悪くなった。
森の近くにも花はたくさんあった。
「え、たくさん花あるじゃん。あれじゃダメなの?」
「森から近いとハチと取り合いになる可能性があり、殺されるかもしれない」
「なるほど、それだと森から離れた町の方の花の蜜を取りに行くしかないのか。でもそれだと人間に狩られるということか」
「ギギギ」
本当に憎たらしいな人間!気持ち悪い
「ところでさこんなに堂々と動き回ってるけど大丈夫なの?」
「人間に見つかったら殺される。他の寿命が近い魔物に会っても殺される。でもこれはお前の命令。そして私はお前の命令に従うように命令されてる」
「え、早く言ってよ。とりあえず大体の状況は分かったから巣に戻ろう、早く」
案内アリさんの上に乗りながら女王アリの部屋に戻ってきた。
女王アリはいないから私と案内アリさんだけだ。
「ありがとう、案内アリさん」
感謝の気持ちを示すために体中をなでたら、ギギギと返されてしまった。
「オルミーはどこかに行ってるの?」
「女王様は卵を産みに他の部屋に行ってる」
「ふーん、そういえばオスアリはもう死んでしまったの?」
『地球の女王アリはオスアリと一度交尾することでそれから10年近く卵を産むことができる。そのため女王アリだけは寿命がとても長い。それに対してオスアリは役目を果たすとすぐに死んでしまうためすごく短命なのだ。これに関しては悲しいがそういう構造なのだから仕方ないと私は思ってる。働き蟻は雌である。寝ないで働く働き蟻はで2,3ヶ月で死んでしまう。クロヤマアリの働き蟻は睡眠時間があるので2年くらいは生きられる』
「オスアリとはなに?」
「女王アリと子供を作るオスのアリのことだけど」
「女王様は魔法で子供を産んでいるのでそんなものはいない」
「へえ、そうなんだ。興味深いな。早く信頼してもらって見学させてもらおう!」
「それよりどうするんだ、これから」
「うーん、どうしたら良いと思う、案内アリさん」
「それを考えるのがお前」
「まあそうなんだけどどうしようかな」
地球でのアリは弱った昆虫や死骸を巣まで運んでるんだよな。でも他の魔物を殺していたら私の目標を達成できないからダメで、そもそも他の魔物を倒せないし。やっぱり人間を食料にするのが一番良いんだけど、結局人間も倒せないからな。いや待てよ、本当に人間を倒せないのか……
「ふっふっふ、ふふっふ」
「大丈夫」
「ふっふふふ、ふっふふ、大丈夫。少しテンション上がっちゃっただけ、ふふ」
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