第2話 アリと住処 ⑻

 私の前には30匹の働き蟻が集まった。女王アリの話ではこれでこの巣にいるアリは全てらしい。地球のアリの巣には多いと数百万匹いるから、それと比べてしまうとどうしても少ない思ったけど、目の前に私の半分くらいの大きさのアリが30匹並ぶと軍隊のような迫力があった。

 アニメで見たような光景だ。

 この軍隊をみて最初にそんな感想を抱いた。アニメの中で魔物が軍隊のように整列して人間の町に攻め込むのを見たとき、すごく爽快感があった。私は70歳の老人だったのに「殺せー!!」などとテレビに向かって叫んでいた。今思うとそれだけ元気なら探検に行けたのではと思う。

 結果はだいたいいつも人間側の圧勝だったから、クソアニメとネットに書き込んで炎上した。私はノーベル賞とかとってたから世間から有名だったらしい。まあ人間から褒められても非難されてもどうでも良かったけど。

 アニメの中であっても魔物は気持ち悪い存在で、殺しても良い存在だった。たくさんの血を出しながら死んでいった。これをアニメで流す時点でこの世は人間至上主義だと分かる。ほとんど誰も悲しんだりしない。人間が死ぬアニメでは心を痛めるのに。

 これだけは許せなかった。

 まあ今頃文句を言ってもしょうがない。それに、そういうシーン以外は面白かったから、そこまでアニメを悪く言うつもりはない。私も最期の5年間くらいでオタクになっていたし。


「それじゃあ働きアリさん達、今説明したように町の近くの花が咲いているところまで穴を掘ってください」


 働きアリ達はオルミーに私の言うことを聞くように命令されていたため、私が言ったように仕事をしてくれた。

 この世界のクロヤマアリは寝ないで仕事してくれるらしくて作業はどんどんと進んでいった。それに勤勉を象徴するだけあってサボってるアリがいなかった。

 

『地球の働きアリは2割くらいはサボっているが、アリは勤勉・忍耐力の象徴なのだ。他にもアリにはスピリチュアル的な意味があるがここではこの辺にしておこう』

 

 人間もこれくらい勤勉ならば自分たちが一番偉い訳では無いのだと気づくはずなのに、やっぱり人間は頭が悪く愚かで気持ち悪い。

 働きアリが仕事を始めた1日目の夜、私と女王アリのオルミーは最下層の部屋で2人っきりだった。


「オルミー、体触らせて。ふっふふ」

「気持ち悪い。それに名前を、いや名前はもういいです」


 オルミーは敬語になったし声も少し優しくなった気がした。それに名前許可してくれたし、これはほとんど頼みを達成したからかな。

 それより今はこの硬い胸部を触っとかないと、今は機嫌が良さそうだし。


「働きアリが準備を終えるまで退屈だから、クロヤマアリのこといろいろ教えてよ」

「まあいいですけど、その気持ち悪い手つきで腹部と胸部の間をさわるのをやめてくれませんか」

「えーいいじゃん。減る物じゃ無いんですし良いじゃ無いですか。それにこれはアリにしかないから今のうちにこの成分をチャージしとかないと」


 決していかがわしいことをしてるわけでは無い、凜はただ腹柄節と呼ばれる部分に抱きついていただけ。だって地球のアリは小さくて見ることしかできなかったんだもん。

 この節の部分なんて触れなかったもん。


「それにこの腹柄節がクネクネ曲がるおかげで狭い道を通ることができるんだから今のうちにほぐしておかないとね。これはあくまでオルミーのためのマッサージです!」


 断言した。

 スベスベで気持ちいいとほっぺたをスリスリしていた。


「それで何が知りたいんですか?」


 なんかスベスベするの許されたから、他の部分もスリスリしながら質問していく。


「えっと、ここには女王と働きアリしかいないの?」

「たぶんそうですよ、私が女王になったときには働きアリだけですよ。それにこの近くに他のアリもいませんし」


 この世界には兵隊アリとかオスアリはいないのかな?オスアリに関しては案内アリさんも言ってたけど。というかやっぱり優しくなってるよね、オルミー。

 優しくなったとか言って、すねられて触らせてもらえなくなったら嫌だから言わないけど。

 絶対に私に対して甘くなったよね。もしかして私のこと好きなの!

 一回落ち着こう。今まで人間関係を築いてこなかったせいで、相手の感情が分からない。これで勘違いだったら恥ずかしすぎる。


「そういえばオルミーは寿命大丈夫なの?」

「最近魔石を食べたので半年は大丈夫ですよ。そんなことよりあの作戦で本当にいいんですか」


 なんか話を変えられた気がするがまあいいだろう。というかこの触角ざらざらしてて気持ちいい!


「いいよ。当たり前じゃん。なんでそんなに心配してるの?」

「いや別に何でも無いです。最後に確認しときたかっただけです」

「そう。それじゃあ今日はここで寝るね!」

「それは、」


 否定される前にオルミーと添い寝するように寝転んだ。


「いいでしょ、オルミー」

 上目遣いの可愛さ全開!


「まあ、いいですよ。あなたも子供ですもんね」

「うん」


 やっぱり可愛さは正義なのかもしれない。それに子供の格好でいるからか、精神年齢も若干下がってきている気がする。

 オルミーのサイズは1メートルくらいだからまるで姉妹が仲良く寝てるようだった。もちろん凜の感覚では、普通の人からは真っ黒の化け物にとらわれた少女という構図だ。

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