第2話 アリと住処 ⑼

 2日が経つ頃には、今の巣からグネグネとした道が町の近くの地面まで掘られた。あとは地上と地面を繋ぐためにほんの少し掘るだけで、町の近くの花の蜜がとれるようになる。穴の広さは60センチくらいの働きアリが通れる位なので、人間の大人が入ってこれるほどの広さでは無いため、安全に食料となる花の蜜を確保できるだろう。

 それに町から森の間の草原は膝くらいまでの草が生い茂っているため、簡単には穴を見つけられないし、花の蜜を取るだけなら人間から見つかる可能性も低い。

 これで女王が言っていた頼みをやり遂げたと言っても良いだろう。しかしこれではまだ足りない。食料があっても人間を捕まえないと寿命は延ばせない、つまり根本的な問題が残っている。



 私の隣には案内アリさんがいた。女王アリからの命令を未だに守り、私の側にいて言うことを聞いてくれる。さすが勤勉というかバカ真面目すぎる。もちろんありがたいと思ってるよ。

 今日は私が働きアリたちに命令してから3日目だった。まだ地上と穴はつなげていない。最後の仕上げをやってもらっているところだ。

 そのため今日も私はやることがない。だから案内アリさんに乗って、アリの巣見学を行っていた。

 まずは食料保管室にむかった。そこにはほとんど食料が残っていなかった。本当に食糧不足って感じだ。私がいなかったら死ぬ覚悟で町にでも攻めていたのだろうか?

 それはないか、アリたちは人間に勝てるとは全く思ってないことは確かだから。たぶん共食いだろうな……

 共食いがいけないことだとは思ってないが、大好きな生き物たちが人間が原因で喰らい合うのは見たくない。カマキリなどが交尾中に共食いしたりするのはそういう習性だからいいんだけど。前世でも何度も見てきたし。


「あれ……共食いでは寿命は延びないの?」

「延びないらしい。女王様が言っていた」

「そうなんだ」


 後で一応オルミーに確認してみよう。

 特に面白かった物が無かったので次にゴミを保管する場所に行った。アリは排泄物や食べられない殻などをしっかりと一カ所にまとめる。そのため他の部屋や通路はとても綺麗だ。

 この時点で掃除できないゴミ人間よりは存在が上のことは確実だ。これを理解できない人間は非常に気持ち悪い。

 一応言っておくが、凜のほとんど帰ることがなかった家はとても汚かった。研究室は清潔に保たれていたが。

 ゴミを一カ所にまとめるというのは興味深いが、ゴミ捨て場自体は特に興味を引かれる物では無かった。ただ臭かった。


 次に女王が産卵する場所に行った。案内アリさんはギギギと不満そうだったが邪魔をしないと言って連れてきてもらった。

 向かう途中で案内アリさんはいろいろ教えてくれた。女王アリのオルミーが働きアリの自分たちには名前を決してつけないことや、自分の名前を呼ばせないこと、働きアリの寿命が地球のクロヤマアリと違いたったの2週間しかないこと、魔物は自分の寿命があと何日か正確に理解しているなどを教えてくれた。案内アリさんの声はずっと一定で悲しいという感情などは伝わってこなかった。

 だから一昨日の夜寿命の話になって話題を逸らそうとしたのか。私はまだぜんぜん魔物について知れてないと改めて分かった。もっと魔物に寄り添っていかなければナミちゃんの時と同じ事を繰り返してしまう。

 それに案内アリさんも……

 私が乗っている案内アリさんの寿命がどれくらいなのか聞くことはなかった。今日と言われるのが怖かった。今の私はこの世界を変えるまで自分を犠牲にできない。


 女王アリが産卵している部屋の入り口に着いた。

 こっそりと中をのぞくと、今まで見ていたオルミーとは違うオルミーがいた。

 働きアリの前で見せた威厳があるオルミーではなく、一昨日から私の前で見せる心を開いてくれたような優しいオルミーでもなかった。新しい子供の卵を産んで喜んでるわけでもなかった。表情がはっきりと分かるわけでは無いけど一緒に居たから雰囲気で分かった。

 今のオルミーは悲しそうで苦しそうだった。

 私がナミを失ったときに似ているようでまた違うような感じだった。今まで周りの感情を気にしてこなかった私には正確には理解できなかった。それでもオルミーにはいつものようにいてほしいと思った。

 そして一つだけ確かなことは、オルミーにあんな顔をさせないためには、現状を変えるしかないということ。

 結局私にできることは魔物と協力して、魔物を人間より上の生き物であることを示していくことだと分かった。



 私は明日に備えて早めに寝ることにした。

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