第4話 ヒトと魔物 ⑿
ナトが働きアリに穴を塞ぐように連絡する瞬間に、触覚がピクピクと動いた。
「連絡が入りました。草原を探索していた冒険者が穴の一つを見つけたそうです」
もう落ち着いている凜は焦ることはない。
「じゃあそれ以外の穴はすぐに隠して。オルミー、働きアリって穴を埋めることもできるの?」
「一応できますが、掘る時みたいに崩れないようにはできません。ただ土を固めて蓋をするといった感じになります」
「まあそれでもやらないよりはマシか。それにもともと見つかりにくいところに穴を掘ってるから土さえかぶせれば見つからないでしょ」
「そうですね。でも見つかった穴はどうしますか」
「とりあえず保留かな。その冒険者の声を聞かせてもらって良い?」
「はい」
どうやらその冒険者は小さくなるポーションを町に買いに行くようだった。
「この間に土で塞いでおきますか?」
「いや、それだと不自然だから止めておこう。それにこの男達はこの穴のことを誰にも伝えなさそうだから、ここで駆除しておいた方が良い」
それにちょうどこの穴がどれくらいの耐久力があるかみるチャンスだし。
「まあそうですけど、もしここまで来られたらどうするんですか」
「話を聞いた限り、この冒険者は下のランクらしいから大丈夫、……とは言えないか」
さっきの話によると私たちがいる森は初心者冒険者のチュートリアル的な場所らしい。そしてその初心者にも歯が立たない魔物達なのだから、相手が初心者冒険者でも安全とはいえない。
私はてっきりこの森に来る冒険者が強いのだと思っていた。それでも冒険者に手も足も出ないのは納得できなかったのに、まさかの初心者冒険者にボコボコにされていたとは、死ねや糞神!
「そうですわね。わたくしもさっきの話には驚きましたわ。まさかもっと強い冒険者がたくさんいるなんて信じたくないわ」
「そうですね。私もです」
場の空気はドンヨリと重くなった。
「はいはい、私たち魔物陣営が弱いのは分かっていたことでしょ。それでも私は魔物が上だと証明する。それに落ち込んでも何も解決しないでしょ」
戯けた感じで明るく言う。今は落ち込んでる暇はない。それに魔物が弱い事なんて関係ない。やると決めたからにはやりきる。
ポケットに入っている小さな標本箱を握る。
「まあ、そうですわね。わたくしたちが弱いのはもう知ってますわね」
「そうですね。それでも私たちは凜と人間を殺すと決めたのですものね」
「そうそう、それに蜂の魔法の通信は普通に凄いし、ナミアゲハの身代わりもとても強力な魔法。単独では力を発揮しないけど、きっと魔物も力を合わせれば強いはずだから。それでさっきの話に戻るけど、この機会にクロヤマアリの魔法について知っておくべきだと思う。これから本当にこの巣が安全なのかを知っておくために」
「そうですね、でも……」
「もちろんここに来られないように策は考えてあるから大丈夫。でも時間が無いから働きアリにすぐに指示を出すね。作戦内容はあとから説明するから」
「はい、私は凜を信じてるから、それで良いですよ」
「わたくしも問題ないですわ。仲間ですもの」
その後、ナトさんを通して働きアリにやってもらいことを伝えた。
少し複雑なところもあったため、適宜指示を出しながら冒険者を捕まえる、いや狩るための準備をしていった。
私とナトが働きアリに指示を出している間はオルミーとクインは部屋の隅で待機していた。
「凜!冒険者帰ってきたよ、準備は終わった?」
「うん、ほとんど終わった。あとは冒険者の魔法で穴が壊れないかだけかな」
「そこは本当に分からないですね」
「でも私的には壊れないと思うんだよね。他の魔物の魔法だけが優秀とは考えられないからね」
もしアリの魔法だけただ穴を掘るだったらマジで神様殺すぞ!そうじゃなくても魔物は1つしか魔法使えないだけでもおかしいのに、クズが、ゴミが、糞神が!
「でももし壊されたとしても、その対応策も考えてるんですよね、凜なら」
「うん、この巣につながってる道は全部閉じたから大丈夫だとは思う。オルミーが言ってたとおり、近くで見たり触れば閉じたところはコーティングされて無くて不自然だけど。まあ穴の中は暗いし、行き止まりの壁にわざわざ触ったりしないだろうから大丈夫だとは思う。それに、」
どんな作戦を立てたか説明しようとしたときにナトの触覚がピクピクと反応した。
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