第4話 ヒトと魔物 ⒀
「穴の前にいる偵察蜂から連絡が入りました。男達は瓶に入った物を飲んで小さくなりました。そして穴に入ろうとしています。ここからは人間の話し声をそのまま話します」
それからはぎこちない人間の言葉がナトから発せられた。
「凜、人間は何と言ってるのかしら」
「冒険者は穴に飛びこんで、落下する手前で真下に風魔法を使って着地するらしい。飛行魔法も実在するらしいがこの冒険者たちは使えないらしい。それに怪我してもポーションで治せるらしい」
「それは大丈夫なのかしら?」
「うん、むしろ良いよ。多分だけど穴に入ったらこの冒険者は抜け出せない。もちろん壁を壊せないと仮定した場合だけど。それに着地の時下に風魔法を撃つと言っていたから、これで壁が人間の魔法に耐えられるのか検証もできる」
「そうですね」
「冒険者達は飛び込んだそうです。一人は仲間の火に当たったのと落下で怪我を負いましたが瓶に入った液体を飲んで回復したそうです。他の人は身体強化をして無事に降りました。そのため全員が無事に穴に入りました」
朝の会話と侵入方法から、侵入してきた冒険者はあまり頭が回らなそうだと思った。穴を見つけたことも仲間に報告せず、犯人を自分たちで見つけることだけを考えてるし。さらに会話によると、こいつらは数日前に人を殺してるようなクズの人間の中のクズのようだ。いや、クズ人間を殺したから優秀なのか?まあ結局は人間の時点でクズ、死ぬべき存在だ。
「それで壁には傷とか入っていたのかしら、ナト」
「少しお待ちください。……周辺の壁には一切傷は入っていないようです」
「良っし!これならあの冒険者を狩れる!」
私は拳を握りこんだ。これでまた下等生物の人間を殺せると思い、テンションが上がったが、指名手配になった失敗があるので調子には乗らない。
「そうなのかしら?そろそろ、わたくしたちにも作戦を教えてくれないかしら」
「そうですよ、凜」
そうだった。さっきはナトの声で遮られたんだった。
「そうだね、でもその前に、ナトさん冒険者が入った穴を閉じといてください。これ以上見つからないように」
「はい」
「えっとまずは、さっきも言ったとおりこの巣に繋がっている道は塞いだ。そして新たな道を迷路のように何十本も掘ってもらったの」
「でもそんなにたくさん掘れる時間は無かったですよね」
「今も働きアリさんには掘ってもらってるからどんどん分かれ道が多くなってる。それも巣とは別方向に伸ばしてるからこの巣にはたどり着かないと思う。それに正確には今まで掘ってあった道の1キロくらいから分かれ道ができるようにしてるから、さらに冒険者が分かれ道に到達するまでに分かれ道を掘れる。もちろんそこにたどり着いた後も、偵察蜂から正確な位置情報をもらって、安全に穴を複雑にしていく予定」
「でも途中で引き返すかもしれませんわ」
「確かにそうだけど、この冒険者は飛行魔法を使えず上れない。冒険者自身も壁を壊さないと上れないと言っていたし」
「でも使える可能性もありましたわ」
「まあその時はしょうがない。私たちはまだ仲間も少ないし、単体では弱いから全てを防ぐのは難しいでしょ。今回はラッキーだったということで」
「確かにそうですわね。いつの間にか自分たちが弱い側だと忘れてましたわ。今回はこの穴をアリが作ったものとバレなければ、こちらの勝ちですものね」
「そういうこと」
「でもさっき、凜は狩れると言ってませんでしたか」
「うん、あの冒険者の魔法では壁に傷をつけられなかったから、ここからは出られないはずだから。ほっとけば死ぬでしょ」
「もっと強い魔法を使えるかもしれませんよ」
「まあそうだけど……でも奥まで進んで道に迷ったら……」
結局壁が壊されたら脱出されることに気づいた。さっきまでは完璧な作戦だと思ってたのに。
調子に乗らないようにしていたが、テンションが上がって思考が鈍っていたかもしれない。
「……確かに壁を壊せるほどの魔法が使われれば脱出されるかもしれない。でもクインも言っていたとおり、この穴がアリの物ではなく人間がやったものだと思われれば問題ないじゃん。もう入り口の穴は全部閉じたし」
早口で言い切った。
「そうですね。やっぱり凜は少し抜けてますね」
前にも頭が悪いときがあると言われたことがある。でもあのときは否定したが、今回は何も言い返せなかった。
「うー」
「ごめん、凜。他にもなにか作戦考えてたのですか」
「うー」
「本当にごめんなさい、凜。私の体触っても良いですから」
「じゃあ許す」
ずっとアリに指示をだしていて疲れていたから、オルミーに触ってエネルギーチャージしたかった。
「他には穴の大きさを小さくして、進むのに時間がかかるようにした。それでさらに穴を掘る時間を確保した。他にも開けた空間を作らないようにしたし、冒険者が進んだ道は後から土で塞いで元の開けた空間に戻れなくするつもり」
今までの穴は働きアリよりも大きいオルミーや、私がアリに乗っても通れる広さだったけど、指示している途中にもっと穴の広さを小さくできると知り、そこからより穴の広さを小さくした。
開けた空間を作らないようにした理由は、魔法を封じられるのではと思ったから。狭い空間では強い魔法を撃ったら自分まで巻き込まれるから撃てないと思った。
どんな魔法があるか分からないから絶対というわけではないけど。
「男達動き出しました」
その後はナトの通信によると男達は穴の中を進み、道に迷った。
夜になる頃には、体力が尽きたのか狭い穴の中で魔法を撃った。その魔法でも壁には傷一つつかなかった。
でもポーションの力が想像以上で狭い穴では魔法を使えないという予想は外れたが、それ以外はほとんど完璧だった。
「凜の言うとおりでしたね」
「でしょ!あとは男達が死ぬのを待つだけだね」
「そうですわね。まさか本当に冒険者を狩れるとは思いませんでしたわ」
「でも今回は自分の手で殺した感がないのが残念だな。子供を穴に落としたときは、ゴミな人間を殺せたという充実感を感じられたのに」
「そうですわね。わたくしも、もう少し嬉しい気持ちになるかと思っていましたが、あまり憎い人間を殺した感がないですわね」
「やっぱりそうだよね、クイン。まあ今は力が無いからしょうがないけど、次はもっと凄惨に殺そうね」
「そうですわね」
凜とクインは向き合って、踊り始めるのではないかと言うほどテンションが上がっていた。
「二人ともまだ死んでいませんから。まだ魔法を隠しているかもしれないんですから気を抜かないでくださいね」
その後もナトから偵察蜂から送られてくる情報を聞いた。
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