第4話 ヒトと魔物 ⒁

 ボル達3人はもう脱出することを諦めていた。

 先ほどまでは作戦を考えようとしていたが、何も思い浮かばなかったので諦めることにした。それにもう一歩も動けない程度には疲労が溜まっていたので、解決策が思い浮かんだとしても実行できない。

 でも今は落ち込んでるわけではない。

 最期にみんなで楽しい時間を過ごしている。今まであったことやギルド長のジジイの愚痴など変わらない日々の会話をしている。

 俺はこの2人と会話する時間が人生で一番楽しかったと思っている。さっき気づいた。今まで二人と一緒に居られるのが当たり前すぎて気づいてなかった。

 体が大きくなってきた。

 俺たちは全員寝転ぶ形になった。

 大人のサイズまでもどるときつくて、ほとんど動けない状態になった。


「リーダー、俺もう呼吸がしんどくなってきました」


 太っているテリはまったく動けないようになっていた。お腹あたりが壁に押されて苦しそうにしていた。


「そうか。それならもう全員で死ぬか」

「そうっすね。テリが苦しいなら全員で終わりにするっす」

「ありがとうございます、トス、リーダー」

「それじゃあ、二人ともありがとな。あの世まで俺についてきてくれ」

「当たり前っす、リーダー」

「ずっとついていきます、リーダー」


 テリとトスはいつもの笑顔を向けてくれた。

 俺は残っている魔力を全て使い、大きなファイヤーボールを狭い穴の中で爆発させた。



 私は冒険者ギルドでジャイルやボル達、今日外の調査をしに行ったメンバーが帰ってくるのを待っていた。

 すでにベテランパーティーは帰ってきて、成果を聞いたが、特に何もなかった。残念ではあるが、犯人が本当に町の外に潜伏しているのか確実ではないので、もしかしたら町の中にいてすぐに捕まえられるかもしれないという期待と、遠くに逃げて見つけられないのではという不安が混ざり合っていた。


「ロドリスさん帰りました」

「おお、ジャイル!帰ってきたな」


 若手期待のシルバーランクのハリスポンが無事じゃないことなんてないと思っていたが、4人全員が無事なのを確認できて安心した。


「早速だが何か犯人に関わる事が分かったか?」

「すみませんが、何も分かりませんでした。本当にすみません」

「いや、構わないさ。今日は急な依頼に応えてくれてありがとな」

「でも一つだけ気になることがあったんです」

「何か変わったことがあったのか」

「えっと変わったことか分からないんですが、今日は犯人が潜伏しているかもしれないと思い、魔術師のアンに魔力探知をお願いしたんですよ。そしたら草原地帯の地下から魔力を感じたんです。それ以外にも自分たちの近くにも魔力を感じたんですよ。でも近くには何もいなかったんです」


「確かにそれは不思議だな。でも草原地帯の地下から魔力を感じるのは別に不思議なことでもないだろうな。実際ダンジョン内はあたり一体から魔力を感じるのだからな。森がダンジョンとされているが、魔物は草原まで出てくることもあるから草原からもうダンジョンということだろう」

「そうですね、ロドリスさん」

「でも今までは草原はダンジョンではないとされてきたから、意外と発見かもしれないな。今まで初心者冒険者で魔力探知を使える者はほとんどいないし、わざわざ弱い魔物しかいない外で魔力探知なんてする機会がなかったから、誰も草原の下から魔力が出てることに気づかなかったのだろうな」

「まあそうかもしれないですね。草原で感じた魔力はとても弱かったので気づく人がいなかったのかもしれません」

「私が近くで感じた魔力はもしかしたら気のせいだったかもしれません。そんな気がしてきました。とても小さな小さな魔力だったので地面からの魔力とかと勘違いしてしまったのだと思います」


 ジャイルのパーティーメンバーの魔術師のアンが答えた。


「まあ勘違いにしろ、そんなに小さな魔力だったのなら脅威にはならないだろうから問題ないな。それよりも誘拐の方が気になるな」

「他のパーティーからも何も情報がないのですか」

「今のところ無いな。あとボルのパーティーはまだ帰ってきてないな」

「もう暗くなってるので心配ですね。僕たちが帰ってくるときは見かけませんでしたけど」

「まあそのうち帰って来るだろう。だからジャイル達はもう帰ってもいいですな」

「それじゃあ、明日もよろしくお願いします」

「それは私の台詞ですな。それと明日からはもう少し捜索メンバーを増やせそうだ」


 ジャイル達は冒険者ギルドから出て行った。

 それから何時間経ってもボル達が帰ってくることはなかった。

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