第3話 ハチと取引 ⑷

 しばらく木の裏で待っていると、私たちの横を通って、草原の大きな花に頭からお尻までが20センチくらいのミツバチが止まった。意外と小さいと感じてしまった。アリと比べると3分の1で小さく見えた。

 もちろん地球にいたミツバチとは比べものにならないほど大きいけど。

 隣を通るときはブーンという音が聞こえた。

 案内アリさんから降りて、花の蜜を吸っているミツバチの後ろからこっそりと近づいた。

 手が届きそうな距離まで近づき、空の標本箱を伸ばすと、ミツバチは光の塊となって標本箱の中に吸い込まれた。


「何をする。出せ!」


 羽を動かしてるわけでもないのにブーンという雑音を出しながら声を上げた。アリはギギギという雑音を出しながら話すため、その雑音がミツバチのはブーンということだろうと思った。

 地球でのミツバチはもともと穏やかな性格で自分からは攻撃してこないが、攻撃されたりすると襲ってくる。

 この世界のミツバチも同じで、攻撃されると好戦的になるのかもしれないと思った。

 これで標本箱に閉じ込めるのは3回目だけど少し罪悪感がある。でも綺麗に標本されてる感動の方が大きい。


「ごめん、ちょっとだけ話を聞いてくれない?ニホンミツバチさん」

「なんで人間が魔物と話せる、それになんで俺たちの名前を知っている!」

「あれ、もしかしてオスなの?」

 一人称が俺だからオスかと思った。

 


『地球にいるミツバチの働き蜂は働きアリと同じでメスしかいない。

 オス蜂は女王と交尾することだけが役目で、交尾できずに繁殖期を過ごしてしまったら巣から追い出されて死んでします。オス蜂には針がなく、女王バチを見つけるために目が発達していて、ハエのような目を持ってる』



 そういえばここのクロヤマアリは女王アリの魔法が繁殖だからオスアリがいないと言っていた。つまりあの巣には雌しかいなかったのか。


「俺はメスだ。それがどうした、お前は何者だ!」


 やっぱり働き蜂は雌なのか。


「そうなんだ、私はあなたを殺す気はないの。すぐにここから出すから話だけ聞いてくれる?」

「分かったから早く話せ、早く出せ!」

「分かったよ、とりあえず出すけど逃げないでね」


 標本箱を開けてミツバチを出した。羽を動かしてるためブーンという音が耳に響いた。意外とこの音が好きなんだよね。


「う、本当に出してくれるのか。お前は本当に人間か」

「うん、私は魔物の仲間」

「それを決めるのは女王様。でも話だけは聞いてあげる。私を殺さないでくれたから」


 私?一人称が変わった。もしかして好戦的なときは俺なのかな?


「私はクロヤマアリと協力関係を築いている、露光ろこうりん

「それは本当か。人間のお前が魔物と」

「うん、ちょっと待ってね。案内アリさん来てー」


 木の裏で隠れていた案内アリは出てきたが、いつもよりも足取りが重いし震えていた。


「大丈夫だよ、こっちから攻撃しなければ襲ってこないよ」

「ギギ、ギ」

「これだけでは証明にならないかもしれないけどクロヤマアリとは仲間なの」

「一応信じるが、最後は女王様が決める」


 この感じ案内アリさんに会ったときを思い出す。働きアリも働き蜂も似てるのだろうか。


「それでいいよ。それで話なんだけ女王様に私たちと協力してくれないって伝えてくれる。明日もこのあたりにいるから来てくれない」

「分かった。伝えるだけはしてやる」

「じゃあお願いね」


 ミツバチは花の蜜を吸ってから来た道を引き返していった。

 ミツバチはお腹に蜜を貯めて帰り、その蜜を巣で出して蜂蜜を作る。


「あ!」

「どうした」

「観察するの忘れてた。ニホンミツバチの特徴があるのか気になってたのに」

 うわ!さっき標本箱に入ったとき見とくんだった。

「どうでも良い。これからどうする」

「一回巣に戻ろうかな。いや、今日のうちに人間を捕獲しに行こう。警戒される前にあと数人は捕まえときたい」

「ギギギ」


 その後は昨日と同じ手順で4人の小さな子供を穴に落として殺し、働きアリたちに食料保管室に運んでもらった。今日も魔物のために愚かな人間を殺すことができて、気分は上々だった。単純に嫌いな人間に復讐できたことも嬉しかった。

 その頃には夜になってたので、私は案内アリさんに最下層の部屋に送ってもらった。部屋にはオルミーと2人だった。


「そういえばニホンミツバチの魔法って何か分かる?」

「分からないですね。私はあの針だと思うのですけど」


 たしかに一度刺しても針がとれないのは地球にいたものと比べて進化してるからあり得なくもないか。


「そうか、今日聞いとくべきだったな。あとミツバチも人間にはまったく歯が立たないの?アリを2刺しで倒せるんだよね」

「多分無理ですよ。人間の肌に針が刺さらないと思いますよ」


 なんとなく分かっていた。やっぱり魔物不遇すぎるだろ。死ね、神!

 というかその針2発で死ぬってアリ相当弱くない……もしかして私のパンチで倒せたりしないよね……


「まあ、そんなもんだよね。……でもさ小さな人間とかなら殺せるんじゃないの。あの町には門番とかいないし」

「言ってませんでしたか。たぶん魔法を使えない小さな子供なら倒せると思いますよ」

「じゃあなんで?」

「あの町には結界のようなものが張ってあって私たち魔物が入ろうとすると魔物の体が燃えるようになってるんです」

「え、そうなの?」


 だから門番とか立ってなかったのかぁ。いや、今大事なのはそこじゃないな。


「はい、私が生まれたとき一度働きアリを町に行かせたら燃えて死んでしまいました。だから魔物は人間の子供を狩ることはできないんです」


 え、これヤバくない……

 攫った子と一緒にいたところ誰かに見られてると思うんだけど……


「……ということは私があの町に入れなくなると、私たち魔物陣営はあの町に入れなくなるって事?」

「そうですよ」


 よし、一端考えるのをやめよう。今日はミツバチとの交流も子供の捕獲も頑張った。


「寝よう、オルミー」

「いいですよ、凜。今日は、だ、抱きつかなくて良いんですか」


 オルミーの声には照れがあった気がした。でも今は疲れてるからそんなことどうでも良い。抱きついて良いなら抱きつくだけ。


「いいの?」

「特別ですよ」

「じゃあお言葉に甘えて」

「ギギ!」


 今日も抱き合って寝た。なんかオルミーがまた変な声を出していた気がするが、疲れていたので私はすぐに眠りについた。

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