第3話 ハチと取引 ⑸
今日も案内アリさんと森と草原の境界に来ていた。
「今日もミツバチと会うのか?」
「うん、やっぱり怖い?それなら木の陰にいても良いけど」
「これも仕事。やりきる」
木の陰にいろと言っても言うことを聞かないだろという圧を感じた。人間もこれくらい真面目に仕事に取り組め!だから愚かなんだ。
ブーンと音を立て、昨日と同じミツバチが1匹で来た。
「おはよう、ミツバチさん。どうだった?」
ミツバチは近くの花に止まって、ブーンという雑音を出しながら話し出した。
「話をしたいと女王様はおっしゃった」
「良かった。それでどこにいるの?」
「まだ信用できないから私が連絡をとる」
「わざわざ巣まで戻ってを繰り返すってこと?さすがにそれだと時間がかかりすぎるし、私たちも冒険者に見つかる可能性があるんだけど」
今いる場所は冒険者が森に来たら見つかってしまうので長くはいられない。
「いや、私たちニホンミツバチの働き蜂は他の働き蜂と連絡を取ることができる」
「どういうこと?ダンスとかで伝えるってこと?」
ミツバチは蜜などを見つけたときダンスを踊り、その位置を仲間に伝える。
でもこの世界の魔物は会話できるからダンスしなくても良いと思うんだけどな。
「いや、違う。なんでダンスなんてする必要がある」
ですよねー。分かってたよ、話せるのにそんなことしないよね。
「じゃあどうやって?」
「言葉通り私たちは他の働き蜂と通信することができる」
「電話ってこと?」
「電話とはなんだ。それは分からないが私たちはどれだけ離れていても、他の蜂と連絡をとれる。それが私たちの魔法だ」
え、強くない、さすがに優秀すぎるでしょ。
町を見た感じこの世界は科学が発展していないはずだから、電話なんてないよね。もしかしたら魔法でできるかもしれないけど。
それでも凄く便利すぎない。アリには申し訳ないけど、穴を掘るとは比べものにならないんだけど。
「ということはここで話したことを女王の近くにいる働き蜂に伝えることができて、女王バチが言ったことをこっちに伝えることができるってこと?」
働き蜂を経由するから若干のラグが生じるけど、ほとんどこれは電話じゃん。
「そうだ」
「それならもう話できるの?」
「そうだ。私は女王に言われたとおりに言葉を伝える。逆も同じでお前の言葉もそのまま女王に伝わる。今からは全て女王が話したことを言う」
「わかった」
ミツバチの触角がピクピクと動いた。犬が散歩に行く前に尻尾を振ってるみたいで可愛い。
「わたくしはニホンミツバチの女王クインですわ。人間が本当にクロヤマアリと仲間なのかしら」
目の前では同じミツバチが同じ声で話してるのだが、さっきよりも威厳を感じた。
「本当だよ、クロヤマアリの女王アリのオルミーに証言してもらっても大丈夫だよ、クイン。それと私の名前は聞いてるかもしれないけど
「わたくしに馴れ馴れしいですわね。わたくしは女王ですわよ!」
「イヤだった?」
イヤといわれても名前で呼ぶつもりではいる。オルミーの時と同じで早く仲良くなりたいもん。
「べつに良いですわよ。人間に敬語で話されるのも変ですし」
「そう、良かった。早速なんだけど私たちの仲間になってくれない」
「仲間になって何をするんですかしら?アリに食料を分けろと言うのですかしら。私たちも食料が足りてるわけではないですわよ!」
「私は魔物を人間より上だと証明します。このまま人間に狩られ続けるのではなく、私たち魔物陣営が人間を狩ります。そのために協力して欲しいです」
真剣な声で強く断言した。
「それは無理ですわ。私たち魔物は人間より弱いですわ。そしてその中でも私たちは弱いのですわ」
自分たちが弱いと言っているのに言葉は堂々としていている。
「私はこの森の、世界の魔物を仲間にして人間の地位を落とします。今はまだ弱いかもしれませんが強くなれます。私が強くします。それの第一歩として私たちは町の子供を複数人捕まえました。その2人を分けることもできます」
「本当かしら?」
今までとは違い驚きを含んでいた。
なんか働き蜂の演技うまくない?本当に女王蜂と話しているみたいだ。まあクインの声を聞いたことがないからどこまでうまいか分からないけど。
「明日あたりアリの巣で向き合って話し合いませんか。もちろん信用できないのであれば、そちらの巣でも大丈夫です」
「そうですわね……いいですわよ。わたくしがそちらに行きますわ。今そちらにいる働き蜂に巣の場所を教えてくださるかしら」
「分かった。じゃあまた明日ね、クイン」
「いきなり力が抜けるような話し方に戻りますわね。それではごきげんよう」
ミツバチの触角は動かなくなった。
「それじゃあ、働き蜂さんアリの巣に案内するね」
「了解。これも女王様の命令」
案内アリさんに乗って巣まで働き蜂と一緒に戻り、巣の入り口で分かれた。
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