第4話 ヒトと魔物 ⑺

 少し経つとクイン達がオルミーの部屋に来た。

 クインとナトの後ろには30匹の働き蜂がいた。

 働き蜂は地面にとまり、その前には私とオルミーとクインとナトが働き蜂と向かい合うようにして立っていた。クイン達は飛んでいた。

 働き蜂は20センチくらいなので働きアリが並んだときよりも威圧感はなかったが、部屋に入ってきたときのブーンという羽の音は大きく、すごい威圧感があった。今は地面にとまってるからクインとナトの羽の音しかないため比較的静かだ。


「みんなには伝えたと思いますが、わたくしたちはクロヤマアリとこの人間の少女凜と仲間になりますわ。凜は人間ですがわたくしたちの味方ですわ。あなた達も凜の発言はナトを通して聞いたから分かってると思いますわ」


 え、あれ他の蜂にも伝達されてたの……それなら今から女王っぽく振る舞う必要あるの?

 アリにも蜂にもいつもの私知られてない?


「だから今日からはわたくしと凜さんを女王だと思ってください。凜さんは魔物の女王ですから。良いですわね!」

「「はい」」


 働き蜂もアリと同じで統一感が凄い。

 それにやっぱり女王として振る舞わないといけなそうだ……


「オルミー、人間をもらっても良いかしら」

「はい、部屋の隅に置いてあるのでどうぞ」


 クインは横目で凜を見て、何の反応もないことを確認してから指示を出した。


「それではみんなまずは寿命を延ばすために人間を食べますわよ」

 働き蜂たちは隅に置いてあった子供の死体を食べ、全員の寿命が1ヶ月延びた。


「それではみんな、わたくしたちは話すことがあるので働きアリたちにこの巣について教えてもらったり、コミュニケーションをとるのですわ。さっき言ったとおりこれからはアリと班を作ることになると思いますから」

「「はい」」


 部屋は4人だけになった。


「ふぅー、やっと終わった。堂々と立ってるのも意外と疲れるね」


 まだ口調とか決まってないから黙って立っていたが、背筋を伸ばしたりするのを意識していたらかなり疲れた。


「凜、私のこと触っても良いですよ」


 もちろんお言葉に甘えてスリスリ。

 そんな光景を訝しむようにクインは見ていた。


「オルミーはよくそれに耐えられますわね。というか喜んでいますかしら?まあ良いですわ。凜、わたくしたち蜂は偵察とかアリとの班行動など命令されればすぐに実行できますわよ」

「もう?」


 地球のミツバチはとても賢い。規則正しく巣を作ったり、ダンスで餌の場所を知らせたりと。

 どうやらこっちのミツバチも相当賢いようだ。

 本当に人間とは比べものにならない、死ね人間!


「働きアリも難しい命令は無理ですけど、蜂が隣でサポートしてくれなら問題ないですよ」

「それなら明日から餌集めはアリと蜂の混合チームで行こうか。具体的にはどう決まったの?」

「アリ2匹に蜂1匹の班にしようと思います。残りの蜂は偵察と巣作りですね」

「了解。偵察だけは今日から始めようか。でも蜂は夜だと何も見えないか?」


 蜂は視力が悪くて夜はほとんど何も見ることができない。


「町の出入り口は1箇所だけですから、そこだけ見てるなら問題ないですわ」

「確かにそうだね。じゃあ早速標本箱を使って小さくして町の入り口を見ていてもらおうか」

「そうですわね」

「あと連絡蜂さんをそろそろ私の側に置いても良い?」


 さっきも普通に部屋から出て行ったけど。オルミーに付いている蜂は後ろの方で存在感消しているのに……


「そうですわね、言っておきますわ。というか凜が命令して良いんですわよ。その蜂とはずっと一緒に居るんだから言葉遣いもそのままで大丈夫ですわ」

「そうだね。じゃああとで言ってみるよ」

「偵察以外は明日からでも問題ないかな。あとは……何かある?」

「わたくしから一つだけ確認しても良いですかしら?」

「なに?」

「この部屋に入ったときから思ってたんですけど、さっきの人間は誰が殺したのかしら。もしかして凜が殺したのかしら」


 クインの声は少しだけ小さくなる。自分だったら、たとえ自分の子供でないとしても同族の子供を殺すのは無理だと思っていた。というかそんなことを考えてもいなかった。

 ある魔物は自分で殺して共食いすると聞いたことがあるがそれは冗談だと思って、今まで流していた。

 凜が人間を捕まえたと言っていたので捕獲したのだと思っていた。殺すのは食べる私たちがやるものだと思っていた。今考えれば魔法を使える人間をどうやって捕獲しているのだろうと疑問を抱かなかった私もおかしいのだが。

 さっき食べるときに凜の反応を確認したのは、目の前で同族が食べられるのを見せて良いのかと不安に思ったから。まあ私たちは死んだ仲間を食料として食べてるから不思議ではないが、それはあくまで仕方なくだ。弱い私たちが生き残るため。

 だから強い人間はそんなことしないという先入観があった。


「そうだよ。私が穴に落として殺したよ」


 思ってた以上に軽い返答が来てクインは驚いた。

 人間も弱肉強食なのかと思った。確かに同族を簡単に殺せるから私たちのことも魔石のためだけに殺せるのかと納得した。

 もちろん異世界だからと言って人間はそこまで変わらない。つまりクインの勘違いである。


「それだけですわ。それならこれからも凜の前で人間を殺して大丈夫ですわね」

「そんなこと気にしてたの、クイン。全然大丈夫だよ。むしろどんどん殺していこう!」


 凜が一般の人間とは違い、異常なほど人間を嫌ってるということを忘れていたクインはさらに勘違いしてしまう。


「そうですわね。それじゃあ後は偵察を任せる働き蜂をここに呼べば良いですわね」

「うん、オルミーも良いよね」


 さっきから会話に入ってきてなかったオルミーは凜にお尻あたりを触られてから、一人で静かに悶えていた。


「え、あ、大丈夫ですよ」

「それじゃあナト呼んでくれるかしら」

「はい」


 いつの間にか仲直りできたようだ。

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