第3話 ハチと取引 ⑼
私はクインの体を十分に堪能した。特に気に入ったのは後脚のふ節と言われるところ。ここは集めた花粉を蓄える場所で幅広くなっていて安心感があり、触り心地が良かった。
ミツバチもアリと同じく胴体が3つに分かれていて、触角もある。大きな違いは羽があることだ。でも女王アリには羽があるから構造はかなり似ているかもしれない。
ちょうどその頃にオルミー達も帰ってきた。私の耳元で夜は私のこと触って良いからねとオルミーはいいながら隣に座った。最近オルミーが積極的な気がする。私的にはとても嬉しいから良いんだけど。
私の目の前ではクインがナトに何か耳打ちしていた。これからの話をどのように進めるのか話してるのかもしれない。私たちとは違って。
「とりあえず、情報共有しとこうか。まずはお互いの生態や魔法について一応確認しておこう」
「そうですわね。まずは私たちから話しますわ」
クインの話によると、女王バチの魔法はアリと同じで繁殖だそうで、蜂の集団にもオスはいないそうだ。そして働き蜂の数は30匹で、餌である蜜を運ぶのが主な仕事らしい。巣には蜂蜜を作っていて、地球と同じく保存食らしい。
巣は複数ある。まああの大きさの蜂では一つの巣では入りきれないだろう。
一番驚いたことは針は生涯で一度しかさせないそうだ。針は抜けずに残るが、二度目は刺せないそうだ。どんな仕組みになってるのかとても興味深い。さらに毒なども無いらしい。おい、神様ゴミが!
アリと同じで働き蜂は寿命の2週間で死ぬか、冒険者に殺されるそうだ。ナトだけは例外らしい。
いろいろ教えてもらった後にクロヤマアリについてオルミーが話した。
「大体分かったですわ。とりあえず今後の簡単な計画だけここで決めてしまいませんか」
「私は良いですよ」
「私も大丈夫。とりあえずハチの巣はこっちのアリの巣に移したら?外よりは見つかりにくいんじゃない」
蜂の中には地面に巣を作る種類もいる。
「わたくしは良いですけど……」
「私たちアリも大丈夫ですよ。もう仲間なのですから。でもいきなり蜂が姿を消しても問題ないの、凜」
「そうですわね。まだ遠慮してましたわ」
「それは、問題ないと思うよ。だってアリも蜂も弱いから誰も居場所なんて気にしてないでしょ。それに巣を移動したとしても、今までの巣はそのままだし、蜂も昼間は外で活動するんだから問題ないでしょ」
「そうですね」「そうですわね」
2人の声は少し落ち込んでいたが話が止まりそうだったから、気にしないことにした。
「それじゃあ、蜂は巣をアリの巣の中に作って」
「凜さん、わたくしたちは全員で急いで巣を作った方が良いのかしら?」
「いや、ゆっくりで良いよ。蜂には過ごしにくいかもだけど、アリの巣は今のところ安全だから」
そういえばアリの巣もハチの巣も冒険者に見つかってないのか?
「分かったわ。それじゃあ何か他にすることがあるのかしら」
「とりあえずは蜜集めと周りの偵察とかかな」
「偵察って巣の周りに人間が来るか見張るってことですわね」
「いや、町から出てきた冒険者を見張るって感じかな。でも大きさ的に見つかっちゃうか……」
蜂の通信があるなら、町から冒険者が近づいてるのを発見次第、他のアリや蜂を巣に戻せると思ったけど、偵察部隊がすぐに見つかってしまうか……
やっぱり生き物はでかくなるのが進化とはいえないな。小さい方が良いこともたくさんあるしな。
「凜のあの箱に入ってる蝶は小さかったけど、小さくできないの?」
「標本箱のこと?」
確かに小さくできる。実際ポケットに小さくしたナミが入っている。
今まで生きた生き物は小さくしたことなかったな。そもそも発想がなかった。
まず、ほとんど標本箱にしまってないしな。だって言葉が通じるから、固定しなくても観察も触らせてもくれるから。
「標本箱?とは何かしら」
空の標本箱を見せながらクインに説明した。
「それでオルミーが言っていたことはできるのかしら?」
「できるか分からないけどやってみようか。働き蜂さんの1匹協力してもらっても良い?」
「良いですわよ。ナト協力してください」
クインの隣にいるナトはプンとそっぽを向く。
「ナト、勝手に仲間になった事に関してはさっき謝ったじゃないですか」
「ブーン」
ナトは嫌々ながらこちらに来てくれた。
「それじゃあ、ナトさんいくよ」
なんとなくさん付けで呼んだ。ちょっと怖かった。
そういえば、案内アリさんもさん付けで呼んでるけど何でだろ?というか案内アリは名前でもないか。
「はい」
標本箱をナトに近づけると、光の塊になって吸い込まれた。標本箱は20センチのナトのサイズに大きくなり、空の標本箱が一つ空中に出現した。これもどれだけ増やせるのかまだ検証してなかった。
「これが凜さんの魔法なのかしら?」
「いや、私も分からないんだよね。とりあえず小さくしてみるね」
小さくなれと念じると標本箱はポケットに入るサイズになった。ほとんど地球にいたときの蜂と同じサイズになった。
「お、できた。あとはここからナトさんが出られるかだね」
「凄いですわ、こんなに小さく。ナト話せるかしら」
「ブーン」
まだ不機嫌のようだ。でもこの状態でも話せることは分かった。
標本箱は普通に開けられて、ナトが出てきた。
「できた!ナトさんなんか問題はある?」
「特にないですけど、皆さんがとても大きく感じて少し怖いです」
「魔法の通信も使えますか」
「問題ないです」
その後すぐにナトを元のサイズに戻した。
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