第4話 ヒトと魔物 ⑽

 ボル達は体力も尽きて、残ってるのは魔力とポーションだけとなっていた。


「こうなったらここで魔法を撃つしかないな。初めの数発は俺らにも当たるかもしれないがポーションでなんとかなるだろ」

「そうっすね」「そうですね」


 みんなの声はもう死んでいる。


「誰が魔法を撃つっすか」


 トスの声は震えていた。きっと穴に落ちたときの痛みの記憶を思い出したのだろう。

 テリはずっと火の玉を出していてもう魔力切れになりかけている。

 イタいのは嫌だがこいつらのために俺がやるしかないだろ。


「ここはリーダーの俺がやるから、お前らは離れとけ!」

 ほんの少し声を張った。


「ありがとうっす、リーダー」

「本当にありがとうございます、リーダー」


 テリとトスの声にも張りが少し戻る。2人とも心からボルを信頼して、尊敬しているのが伝わってくる。

 2人のリーダーと呼ぶ声と笑顔を見ると、こいつらのおかげで今の俺があると思わされる。柄が悪いクセにそこまで突き抜けてない俺が1人にならなかったのはこいつらのおかげだ。

 2人が離れた位置に移動するのを確認して、トンネルの一方の壁に寄りかかるようにして魔法を撃つ体制になる。

 目の前には壁があり、ここで壁を壊すために魔法を使えば確実に俺にもダメージがあると確信した。これは分かっていたことだが、実際に魔法を使おうとすると怖い。

 とりあえず壁を少し壊して魔法を撃ちやすい空間を作りたいから、初級魔法のウォーターボールを撃つことに決めた。

 ポーションがあるから即死しなければほとんどの傷は治せる。だから大丈夫だ。俺のためにもあいつらのためにもここはビビらず魔法を撃つ。大丈夫だ。これでも俺は不良なんだから。

 ボルは心の中で自分に言い聞かせた。

 一度深呼吸する。


「ウォーターボール!」


 ボルの目に前には水の玉ができ、目の前の土の壁に大きな音を立てぶつかった。撃つ瞬間ビビっていつもよりも威力を弱くした。魔法を撃ちやすくするために空間を広げるのが目的だからしょうが無いと心の中で言い訳をしながら。

 それでも目の前で水の玉が弾けたことで自分にも魔法が帰ってきてかなりのダメージを負った。今回も身体強化を使えば良かったのに、緊張と疲労で忘れていた。


「大丈夫っすか、リーダー!」「リーダー!」


 すぐに離れていたテリとトスが近づきボルにポーションを飲ませた。ボルの傷ついた体は見る見るうちに治っていった。


「ああ、問題ない。俺は大丈夫だ」


 もう一生魔法をこんな至近距離では使わないと心に決めながらも、仲間の前だからと強がって見せた。


「リーダー!」

「だから大丈夫だって言ってんだろ。あんまり心配するな」

「いや、違くて……」


 2人とも俺ではなく俺が壊したはずの壁の方を見ていた。こいつら何を焦ってるんだよ?俺をもう少し心配しても良いだろ。

 仲間が見てる方に目を向けると見飽きた、苦痛でしかない光景がそこにはあった。

 目の前には土壁、俺が今寄りかかっているのも土壁、座ってるのも土、上も土壁。俺たちは変わらず狭いトンネルの中にいた。

 変わったのは俺の探索していないような汚れてなかった服がボロボロになっただけ。やっと探索した感じが出ただけ。ポーションが一つ減っただけ。

 それ以外は何も変わっていなかった。

 トンネルは先にも後にもずっと続いている。

 この光景を見て絶望を感じた。今までは魔法という最後の希望が残されていたが、今は何も残されていなかった。あるのは使い道のない魔力と傷を回復させるだけの意味の無い回復用ポーションだけ。

 今の状況がなぜだか正確に理解できた。とても冷静だった。

 このまま俺らは死ぬのか……

 そんな言葉が頭に浮かんだ。


「テリ、トス、ごめんな」


 自然と口から出た。とても弱々しい声。


「リーダー、謝らないでください。俺は、俺らはリーダーを尊敬して、自らの意思でついてきたんです」

「そうっすよ。俺らは頭が悪くて学校ではいじめられていた。それなのにリーダーだけは俺らと仲間になってくれたっす。学校を卒業した後も何の力も無い俺らと一緒にいてくれたっす」

「いや、そんなんじゃないさ……」


 二人は俺を褒めてくれた。それに言うことを聞いてくれたから一緒に居たんだ。俺はそんなに良い人間じゃない。ただの不良、いやチンピラ、いやチンピラでもない。ただの弱い者いじめしてるクズだ。


「……俺の方がお前らに世話になってたんだ」


 お前らがいなかったらこんな風に振る舞うこともできなかった。それにあの日、人を初めて殺してからは特にお前らのおかげで精神を保ってられた。


「リーダー、もう少しだけ足掻いてみませんか。俺らは頭悪いから何も解決策は思いつかないけど、やれるだけやりませんか」

「そうっす。今までもリーダーは止まることなく進んできたじゃないっすか。俺らは最後までリーダーについていくっす」


 それもお前らが俺の後ろにいてくれたからだ。お前らがいるからリーダーなんだ。


「お前らはやっぱり頭が悪いな。こんな状況でも俺についてくるって言うんだから」

「当たり前です、リーダー」「当たり前っす、リーダー」

「それじゃあ何か方法はないか考えてみるか」


 それから俺たち3人は笑い合いながら話し合った。

 もちろん頭が悪い俺らは解決策なんて思いつかなかった。でもいつも通りの俺らだった。


「リーダー、そういえばそろそろ体が大きくなるんじゃないっすか」

「どうだろうな、今何時間経ったか分からないが、そろそろかもな」

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