第3話 ハチと取引 ⑵

「そろそろ話を進めますよ、凜」

「はーい、あとは、卵ってどれくらい産んでるの?」

「基本的には一日一つですよ。卵を産むのにもエネルギーを使うのでたくさんは産めないんですよ。それに死ぬ子供をあまり産みたくなかったので。でも冒険者にたくさん殺されたときなどは多く産みますよ」


 少し暗くなるが、オルミーは前を向いていた。私ももう後ろを向かないと決めたからその気持ちはよく分かる。


「卵を産む数を減らすというか無くしてくれない」

「なんでですか」

「まだ人間を獲得できるほど私たちの戦力がないから、まだ増やさない方が良いでしょ。たぶん子供を攫うのもあと数回やれば警戒されるし。それに食料もたくさんあるわけじゃないし」

「そうですね。今は今いる子供達を死なさないことが大切ですね」

「まあそうだね。それとこれからは他の魔物を仲間にしないとね」

「そうですね。でも本当にできるんですか?私たちクロヤマアリは弱かったし、自分で言うのもあれですけど私が優しかったから仲間になれましたけど……」


 オルミーは不安そうだ。少しだけ表情の変化が分かってきた気がする。


「それは私にも分からない」

「え、本当に大丈夫ですか。今までずっと自信満々でしたけど」


 なんかあきれられてる気がする。やっぱりまだ表情を読み取るのはできていないようだ。


「いや、やる気はあるから。それに分からないのは、ここら辺にどんな魔物がいるか分からないからで、一応作戦は考えてるからたぶん一部の魔物はすぐに仲間にできると思う。それに私たちアリ陣営が他の魔物と協力しても他の魔物から襲われないなら、きっと協力してくれる魔物はいる、はず」

「まあ私たちは凜を信じるしかないので従いますよ。それでなにから話せば良いですか?私は別に魔物に詳しいわけじゃないですからね」

「まずはこの森について知ってることを教えてくれる」

「いいですよ。この森は2カ所、正確にはそれ以上にエリアが分かれているんです。今私たちがいる森に入ったばかりの手前のゾーンと、もっと奥に入ったところの奥のゾーンに分かれています。私たちはその奥のゾーンには入ったことがないのでその先の区分は分かりません。でも奥のゾーンには手前のゾーンよりも明らかに強い魔物が住んでます。もちろん冒険者には負けますが、私たちよりは圧倒的に強いです」


 やっぱり魔物不遇すぎない?死ね神!


「奥のゾーンってどこからがそうなの?」

「木の高さが手前は10メートルくらいですが、奥に行くと20メートル位になり、そこから奥のエリアと言っています。実際は境界あたりにも奥に住んでいる魔物は食べ物を求めて出てくるので、私たちは本当に手前の方と森から出た草原のところで餌を探しているのですが」

「その強い魔物は手前の弱い魔物を狩ったりしないの?そうすれば簡単に寿命を延ばせそうだけど」

「魔物も無理に魔石をたくさん食べるために狩りをするわけではないです。一部の魔物は好戦的ですが。強い魔物は子孫を残し、ある程度生きたら魔石を食べないで寿命で死ぬことを選びます。もちろん、死にたくない場合で本当に寿命が近いときには強い魔物が森の手前まで出てくることがあります。それ以外の時はほとんどでてきません。他にも理由があり、森の手前は冒険者が来ることが多いのでできるだけ奥にいたいのでしょう。人間には殺されたくないので」


 まあ人間に殺されるくらいなら寿命で死にたいという気持ちは分かる。


「なるほど、地球の生き物と同じでずっとおなかを空かせてるわけではないということだね」

「地球?とかは分からないけど魔物同士で無駄な争いを起こそうとする魔物は少ないですね。だからといって仲良い訳ではないですけどね」

「それに手前を全滅させたら冒険者が魔石を求めて奥まで行く可能性が増えそうだしね。たぶんそれも理由の一つだろうね」

「たぶんそれもありますね。凜は頭良いときと悪いときがありますね」

「そんなことないよ。私はいつでも賢いよ!」

「そうですね」

「なんかボー読みの気がするけどいいや。じゃあとりあえずは森の手前だけを考えれば良いね。手前にいる魔物ってどれくらいいるか分かる?」

「ナミアゲハとニホンミツバチ、マメダルマコガネと私たちクロヤマアリの4種が主ですね。他にもいますが数が少なかったりします」


 いろいろツッコミたいところはある。

 ここは日本なのか?!

 全種類日本に生息する昆虫の名前なんだけど。ここの魔物は日本の生き物とは違うところがあるから、名前だけを日本に寄せてるのか?それとも私に聞こえるときにそう翻訳されてるのか?

 まあ名前は良いか、今は仲間にできるかだな。


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