第12話 大粛清までの中だるみ
「ところで千瑛ちゃん、ここ何話か中だるみになっていない?」
鋭いツッコミね。
少し中だるみしているのは確かだわ。
1930年頃からしばらくはソ連としての大きな動きがないのよ。
動いていないというのは語弊があるわね。海外の共産主義との結びつきを強めていたり、海外の諜報網を伸ばしたり、地味な作業は進めているわ。
ただ、大きな観点から見るとホロドモールなどの事実を隠しながら、少しずつ西側との関係改善に動いている時期で、分かりやすいものがないのね。
また、石油開発も一気に進むわけでもないから、国として淡々と時間が経っているのよ。
ここから動き始めるのが、大粛清からというのだから皮肉なものよね。
それに、前回と違って独ソ戦の最初でソ連がドイツに勝つ、という限定的な勝ち方が求められるから、私達がやりすぎてもいけないのよ。
「例えば、スペイン内戦でソ連が応援する共和派が勝ったりすれば、その時点は良いけれども予測不能な形で歴史が変わってしまうわ。こういう事態は避けたいのよね」
ソ連を強くし過ぎると、このあたり含めて色々変わってしまうから、途中まで負けないといけないし、大粛清も放置しなければいけないという、中途半端な立場になってしまうのよ。
結果として、中だるみが生じてしまうわけね。
「ソ連を徹底的に強くしてもいいんじゃない? ソ連が強くなったら、日本がソ連を恐れてアメリカ開戦どころじゃなくなるでしょ。1895年転生の時にはそういう形にしたわけだし」
「その可能性もあるのだけれど……」
当時の日本の陸軍には対ソ全力論と対支一撃論なるものがあったわ。
陸軍の仮想敵国はソ連なのよ。ただ、集中してソ連に当たるのか、あるいはソ連を安心して倒すために中国を一撃で倒して準備しておこうとするのか、という部分に論争があったのね。結局、中国を倒してからソ連に集中しようという意見が勝利して中国に入り込んでいくのだけれど。
「そうこうしているうちに対アメリカとの感情がどんどん悪くなって、気づいたら何故か主敵であったはずのソ連とは戦闘しない協定を結んで、アメリカに開戦することになってしまったんだよね」
「そうよ。そういうエクストリームな動きをするから、油断できないのよ」
1895年転生の時にはそこに至るまでの流れ自体を変えておいたから、変な動きは出ないけれど、この時代には陸軍内部に様々な思惑が生まれているわ。
そうした意見対立があった時に、仲介ルートで全く違う方向に進むことがあるのよ。つまり、AとBで意見が分かれていた時に、お互いの顔を立ててCという全く想定していなかったものが出て来て、そっちに進むという訳ね。
そんなこんなでしばらく事の成り行きを見守るような形で、スヴェトラーナの遊び相手になってあげているわ。
父は仕事の鬼だし、母も色々不安定な人だから、スヴェトラーナは愛情に飢えていたと言われているわね。一緒に遊んであげることは意義があるのよ。
「モスクワ生徒会の中で、僕達は幼稚園部門な感じだね」
「そうね。それにこれには別の意味もあるのよ」
「別の意味?」
スターリンも娘のスヴェトラーナのことは大切にしていたわ。
ただ、妻のナージャはあんなだし、自分も忙しくてとても1人で面倒をみることはできないわ。だから生徒会で面倒を見ていたのよ。
生徒会の中にはスターリンと同郷……グルジア出身のラブレンチー・ベリヤもいるのだけれど、こいつがかなりの幼女趣味なのよ。隙あればスヴェトラーナを抱っこして、市井の幼女達を浚って暴行していたというわ。
「あぁ、ベリヤは確かに危ないよね」
「ベリヤは諜報を担当していたから、独ソ戦の時も色々な情報を握っていたのよ。だけど、スターリンに本気で伝えようとしなかったともいうわ。能力的にも問題はあるし、ベリヤは早いうちに要職から外しておきたいわね」
「……つまり粛清させたいわけね。でも、どうやるの?」
「彼が権力を得る過程は分かっているわ。その過程で踏み石になる人間に教えてあげればいいのよ」
誰だって踏み石にはされたくないでしょ。
踏み石に罠を仕掛けておけば良いというわけ。
「千瑛ちゃんなら大粛清時代も普通に生き残りそうだよ」
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