第14話 敵を知ること
国債を発行して資金を確保し、不況対策と教育強化に向けての計画が通ったわ。
これには別の意味もあるの。
戦争を望んでいたのは軍という認識が強いけれど、実際には官僚の多くも戦争を望んでいたのね。
正確には彼らが望んでいたのは戦争そのものではなく、戦争体制よ。国家の業務が増えることで自分達の存在意義が上がると考えていたのね。
不況対策と教育強化に向けての仕事を与えることで、官僚の満足度を高めておくのよ。
あとは「陛下の指針はこれである」という印象を植え付けることで、そっち方面で仕事をさせるように仕向けるという意味もあるわね。
さて、陛下を通じて、軍にもう一発くさびを打ち込んでおきましょう。
私達が来ると、何だか憂鬱そうな顔をしているわ。また面倒なことを言ってくると思っているのでしょうね。
でも、面倒ごとを避けていては良い為政者になれないのよ。
「……
「……それは構わないが?」
陛下は首をひねりながら、2人を呼ぶように指示を出したわ。
この2人は史実であれば開戦時の陸海の幕僚長よ。
南方作戦が決まった時に天皇陛下は杉山に「何か月かかるんだ」と問いかけ「五ヶ月ほどで」と答えたのよ。それで陛下は「おまえは、この前中国は一ヶ月で終わると言っていたが、四年経ってもまだやっているぞ」と文句を言ったのね。
杉山が「中国は広いので」と回答したら、陛下が「太平洋はもっと広いじゃないか」とツッコミを入れたという、笑い話のような記録が残っているわ。
すったもんだの押し問答の末に、この2人が何とか陛下を説得したというわけよ。
既に開戦が決まっていた状況だから仕方がないけれど、今はそういう切羽詰まった状況ではないわ。
そういう時に聞いておくのよ。
「アメリカ政界の中に、日本を敵視する者が増えてきているという。もし、アメリカと事を構えた場合の想定はできておるか?」
「……はっ?」
陛下の問いかけに、2人は豆鉄砲を食らった鳩のような顔をしているわ。
この、想定していないことへの準備をしないという姿勢は軍を預かるものとしては問題ね。人間としては自然なことなのだろうけれど、政治や軍に関わる者としては非常に問題だわ。そして、日本は特にこの傾向が強いような気がするわね。
「やる、やらないという話ではない。そうなった時にどうすべきなのか、3年前には予想外の地震が起きて大変なことになったではないか。備えあれば憂いなしというものだ」
「なるほど、さすがは陛下。承知いたしました。陸海軍で調べておきましょう」
2人はそのことには納得したようだけど。
「しかし、何故私共に?」
2人は陸海軍で主導者的にあるわけではないし、その世代で見てもトップランナーではないわ。
どうして自分達にその仕事が回ってきたのか分からないようね。未来が分からないのだから仕方ないわ。
それでも、彼らは調べることにしたようよ。
2人が帰った後、陛下が問いかけてきたわ。
「実際はどうなんだろうね?」
「日本は石油を含めた色々な資源が足りていないわ。実際には戦闘する以前に確保体制を整えないといけないのよ」
実際には、ABCDラインが引かれて、フルボッコになってしまったわけだけど。
「万一アメリカと戦争するような状態になるならば、それも力ずくで解決するしかなくなるんだろうね」
「……その通りよ」
「それは避けなければいけないが、どうしたら良いだろうか?」
「単純な話よ。色々な人……例えばオットーとか、アメリカに長期滞在している日本人がいるでしょ。そうした人達を通じて日本と組むメリットを常にアピールしつづけるのよ」
アメリカはニートだから、いい加減に散らかしあたる時があたるわ。ムカつくわよね。
ただ、向こうは自前で資源を確保できるところよ。
それが出来ない日本が、アメリカと同じくニートになっていては、どうしようもないのよ。
「その方達も朕を手伝ってくれないか?」
「もちろんよ」
最終的には私が出向く必要があるのは間違いないわ。
ただ、それは2年後よ。もう少し日本でやらなければならないこともあるのだからね。
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