第6話 1895年日本に転生しました・5
「ということで、『ヴィルヘルム2世には開戦の責任を取らせるけど、ホーエンツォレルン家とドイツの帝政は残そう』という形で始末をつけることが重要になるの。これをウッドロウ・ウィルソンに理解させるのよ」
「ドイツ帝国というのは小ドイツ主義の象徴だから、それを残すことで大ドイツ主義の進出を防ぐわけだね」
「そういうことよ」
第一次世界大戦を起こしたドイツの体制にはお仕置きをするしかない。これは間違いないわ。ただ、帝政まで滅ぼすと後々厄介になって、世界中が迷惑を被るわ。帝室だけは残してドイツ人が変な形に歪むことを避けるのよ。
また、アメリカ側にしてもこの主張はそれほど痛くないわ。ドイツ帝国の地域にはドイツ人しかいないのだから、民族自決どうこうも問題ないしね。
このあたりは第二次世界大戦後の日本の扱いと似ているわね。
ソ連の脅威を食い止めるためには天皇国体を保持した方が良かろう的な話よ。
もう一つ、曲がりなりにも帝政を残せば、戦勝国が莫大な損害賠償をしづらくなる、ということもあるわね。
君主への賠償を認めてしまうと、イギリスやスペイン、北欧諸国の国王がビビることになるから。
更にドイツ帝室が存続すれば、ヒンデンブルクはじめ軍人もしゃきっとするでしょう。「次やったら帝室はないかも」と思うだろうし、多少のイザコザはあっても大きな問題は起こさないはずよ。
「……ウッドロウ・ウィルソンの信用を得て、第一次世界大戦の終結条件に介入できるようになり、そこにドイツ帝室の存続を入れさせる。やるべきことは分かったけれど、具体的にどこから手をつけようか?」
「私達は最初、カリフォルニアに上陸したわ。そして、このカリフォルニアは1916年のアメリカ大統領選挙で大激戦区となるの」
記録によると、勝利したウッドロウ・ウィルソンは466,289票、対立候補のチャールズ・ヒューズは462,516票。非常に僅差の勝利だったの。
この年の選挙は非常に接戦になるから、ウィルソンは気が気でないはずよ。
つまり、それだけ活躍した人に恩義を感じるというわけね。
「なるほど。僕達は休学してカリフォルニアでウィルソンを応援するわけだね」
「そういうことよ」
更に。
このタイミングでカリフォルニアで頑張るということは別の意味もあるわ。
ここからの時代でカリフォルニアの最有力者になるのは、この時点で州知事になっているハイラム・ジョンソンよ(知事の後は上院議員として1945年まで在籍)。
彼は名うての反日活動家としても知られていて、カ州に外国人土地法(排日土地法)を成立させたし、全米的な排日移民法をこれから強烈にプッシュアップしていくわ。
アメリカに来てから世話になった長澤鼎は排日土地法のために子供に土地を残せなくて(更にワイン事業は禁酒法で打撃を受ける)苦労することになるのよね。
ほとんど知られていないけど日本側にしてみれば野放しにしておくのが危険な重要人物よ。
反面、ここで私達が日本人代表としてハイラム・ジョンソンとうまく関係を築けば、そういうのもある程度緩衝できて一石二鳥となるわけよ。
「でも、ジョンソンは排日土地法に署名したわけだし、日本人が嫌いなんじゃないの?」
「前も言ったけど、それはそれ、これはこれよ。私達が彼にとって有為なら、何人だろうと関係ないのよ」
逆もまた真なりで、相手が嫌っているから一切関わり合いにならない、というのは国際社会では通用しないのよ。強い側なら通用するかもしれないけど、弱い側の日本は特に、ね。
大学から休学の許可を貰い、白ロシア人のイワン・イワノフを連れてカリフォルニア州に戻ってきたわ。
白ロシア……ベラルーシもロシアから独立したいのよ。実現までは遠い遠い道のりだし、独立しても残念な結果になってしまっているけれども……
「イワノフを連れていくのは、ハイラム・ジョンソンが日本人だけだと会ってくれない可能性もあるから、白ロシア人を連れていくということだね」
「そういうことよ。いわゆる抱き合わせ戦法ね」
そんなことを話しながらサクラメントにあるカリフォルニア州議事堂にやってきたわ。
反日知事とご対面よ。
※イワン・イワノフは実在人物ではありませんが、白ロシアの民族主義者がアメリカで独立運動をしていたことは事実です。
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