第5話 1895年日本に転生しました・4
アドルフ・ヒトラーのドイツ観を真に理解するには、19世紀半ば頃まで時計の針を戻す必要があるわ。
この当時、いわゆるドイツ人達は主として、
①現在のドイツ(ドイツ地域):多数派
②現在のオーストリア:多数派
③現在のチェコ:少数派
もちろん、国境を接する他の国々……ポーランド、ベネルクス、スイスあたりにもいたけど、基本はこの3つね。
で、当時今後のドイツをどうするかということで二つの考え方があったの。
まずは北部のドイツ人が多い地域だけをまとめてしまう考え(①)。これを小ドイツ主義というわ。
一方、ドイツにオーストリア、更にチェコの一部を含めたドイツ人が住む全地域をまとめようという考え方もあったの(①②③全て)。これが大ドイツ主義ね。
大ドイツ主義の方が景気はいいけど、当時のオーストリアやチェコはハプスブルク家の支配するオーストリア帝国の一部だったの。これを無理やり統合するとなると分断を招くから、プロイセン宰相ビスマルクの下、小ドイツ主義を目指すことになったのよね。
そして、1866年の普墺戦争でプロイセンがオーストリアに勝利した結果、ドイツ地域のみがドイツ帝国となったわ。小ドイツ主義が勝利したわけ。
この結果としてオーストリアのドイツ人は負け組となったの。
というのも、オーストリアという地域にはドイツ人が多いのだけど、オーストリア帝国内にはマジャール人、スラヴ人、ポーランド人、チェコ人等々多種多様な人がいたわけね。その中ではドイツ人は少数派というわけ。
ドイツ帝国内でドイツ人は好き勝手しているけれど、オーストリア帝国のドイツ人は好き勝手できないわけね。
だからオーストリアのドイツ人は悔しい思いをしていたわけよ。
そんな悔しいオーストリア系ドイツ人の中に若きアドルフ・ヒトラーもいた、というわけ。
そこから50年針を進めるわ。
ご存じの通り、第一次世界大戦でドイツは負けてしまったわ。
この結果、ドイツ帝国もオーストリア帝国も帝政が崩壊してしまったの。
おまけに莫大な賠償金まで課せられてしまい、一転してドイツ地域のドイツ人も負け組になってしまったわけね。
彼らはその立場に納得ができなかった。いわゆる「ユダヤの一刺し」という言葉もあってこれは史実ではないんだけど、ドイツは勝っていたのに理不尽に負けさせられたんじゃないかという悔しさがあったのね。
しかも、プロイセンが主となって作った小ドイツ主義が崩壊してしまい、ドイツ地域のドイツ人は自分達の拠り所もなくなってしまったわけ。
そんな自信を失ったドイツ地域の悔しいドイツ人の中に、昔懐かし大ドイツ主義が戻ってきたのよ。ドイツ人はドイツでもオーストリアでもことごとく悲惨な思いをしている、統一しようじゃないか、ということね。
それを激烈に主張したのがヒトラーだったというわけよ。オーストリア帝国時代からの負け組だっただけに、その熱の入れようも半端なかったというわけ。
負け組歴の浅いドイツ系ドイツ人にそれが刺さったという側面もあったと思うわ。
それだけが原因じゃないけど、ヒトラーは権力を奪取することに成功したわ。
彼の中ではオーストリアはもちろんチェコスロヴァキアも当然ドイツとして組み直すべきもの、その理屈に従ったのは歴史を見る通りよ。
ただ、この行動原理は決して彼個人が生み出した話というわけではない、という点は注意する必要があるわ。
さて、ヒトラーがそういう行動原理で動いていたことが分かったとして、当然「周囲の国は?」と思うわよね。
普通は周りが「そんな好き勝手させるかよ」となるはずよ。
オーストリアはドイツ人が多いからともかく、チェコスロヴァキアでは多数派はチェコ人。常識的には彼らは激しく反対するはずでしょ。
ところがチェコ人も、総じて大きな反対はしなかったわ。何故かと言うと、彼らは元々オーストリア帝国の構成員で、つい30年前まで皇帝に従っていたわけよ。独立して確固たるチェコスロヴァキアを運営できる自信があるかというと、ない。
変にいがみあっていると東のソ連に飲み込まれるかもしれない。
かくしてチェコ人もあまり抵抗もなくドイツに従うことになったわけ。
また、イギリスやフランスも、迂闊に首を突っ込んで「失敗しました」となることを恐れてしまった部分もあったわ。
よく、ネヴィル・チェンバレンはドイツとの衝突を恐れて手を引いたと言われるけれど、チェコ人の状況やソ連の脅威を考えると、この段階で介入するのは実は難しかったとも言えるわね。
こういう経緯をたどって、ドイツはオーストリアやチェコスロヴァキアを併合して第二次世界大戦へと向かっていったわけよ。
ただ、そこから更にポーランドまで欲を出したのは失敗だったと言えるわね。英仏もさすがに介入してきたし、ポーランドはチェコと違って独立国として力強く存在していた歴史があるから、安易にドイツに「はい、従います」ともならなかったからね。
で、こうした経緯を見ていくと、第二次世界大戦を回避するために何をすれば良いのかということが見えてくるわけよ。
次はそのあたりを悠ちゃんと相談することになるわ。
あ、ちなみにヒトラーのユダヤ観については今回の話には直接関係はないから一旦すっ飛ばすよ。
だけど、この話だけだとナチスを理解できないから、終わった後についでに説明しておこう、とは思うわ。
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