第7話 1895年日本に転生しました・6

 日米間は後々は外交的な問題もどんどん出て来るけど、このくらいの時代の反日運動については外交というよりは草の根活動的なところにあるのよね。


 最大の問題として日本や中国からの東洋系移民の問題があるわ。

 アメリカは移民の国だけど、彼らの想定する移民というのはキリスト教文化圏の人達で、東洋系は除かれているのよ。

 人種差別的意識もあるし、生活様式が違うからどうしても不愉快という思いになってしまっているわ。

 理不尽な話ではあるけれども、21世紀の日本人もアジア系移民に対して似たような感情を持っているわけで、「なくそう」と言ってなくなるものではないわね。


「とすると、何を話せばいいの?」

「根本的な解決策はないわね。ただ、それで開き直ったら嫌がられるだけだから『一緒に考えていきたいです』というモーションを見せる必要はあるのよ。これは継続して話し合いましょう。他の部分は協力しましょうということね」

 カリフォルニア州は日本のことだけで動いているわけではないし、戦争の話もあるわけだからね。


 ということで、州知事室に入ったけれど、向こうも相手しづらいみたいでもっぱらイワンと話をしようとしているわ。


「白ロシア人がカリフォルニア州に来るのは歓迎だよ」

 思い切り嫌味を言われているわね。

「ところで、君の故郷の方では、戦争はどうなっているんだろうか?」

「それについてはミスター・ユウとミス・チエの方が詳しいです」

 イワンがナイスアシストをしてくれたわ。


 こうなると、戦争のことだから、ジョンソンも私達に聞くしかないわね。

「ふむ、ではミスター・トキカタに聞こうか」

「ロシア方面はドイツが優勢です。ロシアの市民は皇帝の圧政を受けていて、二重に不満が溜まっていて革命が起きる可能性が高いと考えます。そうなるとますますドイツが有利になります」

「革命か……。そこまで言い切るのかね?」

「はい。ただし、行動派も革命を起こすまでは共通していますが、その後どうするかは意見対立があります。革命が起きれば、現在は亡命しているレーニンやトロツキーなども参加するでしょうから、革命政権内で再度激しい戦いが勃発するでしょう。第二次革命が起きるのではないかと思います」

「ほほう……」

 ジョンソンにはレーニンやらトロツキーやら言われてもピンと来ないみたいね。

 そもそも皇帝ツァーがいること以外知らないのではないかしら。

 ちなみにトロツキーはこの時期ニューヨークにいるらしいわ。

「極左や極右政権が革命後ロシアの実権を握った場合、国内粛清のためにロシアが戦争から離脱する可能性もありますね」

「分かった、ありがとう」

 分からないので打ち切ろうという感じで話を切られたわ。

「では西部戦線はどうだろう?」


 こちらの方がより重要ね。

 アメリカには各地の移民がいるわ。ドイツ系やオーストリア系もいるけれど、それ以上に英仏や墺露から逃げてきている移民の方が多いわね。

 当然、彼らはアメリカに連合国側で参戦してほしいと思っているわ。大統領選挙でも彼らの動向は一つのカギとなる。

 共和党のヒューズは徴兵制や軍備拡大の政策を主張しているわ。彼ら欧州移民系の票を取り込みたいわけよ。

 一方のウィルソンは伝統的な「アメリカはどこにも関与しません」という構えね。


 ジョンソンは前回選挙の前、共和党主流派と意見対立があってセオドア・ルーズヴェルトとともに進歩党を作ったわ。ただ、結果的に共和党を割る形になってウィルソンに勝ちを譲ることになったのよ。

 その反省を受けてか、ルーズヴェルトは今回、共和党のヒューズを応援する構えよ。


 西部戦線にはこうした動向も絡んでくるわね。


「現在拮抗していますが、ドイツはアメリカが連合国に物資を供給していることにイライラしています。あるいは遠くないうちに無制限攻撃をしてくるかもしれません。一方でドイツはアメリカが対独参戦をした時に備えています」

「というと?」

「アメリカが簡単に軍を出せないように、南のメキシコに加えて、西から日本も参戦させようと計らうと思います」

「メキシコや日本も?」


 ジョンソンは州知事だから国の外交に関しては深く考えていないところがあるわ。そもそもアメリカの外交には引きこもり主義しか存在しないから、細かいことが分からないのよね。

 日本が西から攻めてくるというのは想像していなかったでしょうけれど、何せ本人が排日土地法とか作っていて、思い当たるところもあるから落ち着かなくなってきたわね。


「……ただし、イギリスは世界の(通信の)覇権を握っています。そうやすやすとメキシコと日本を乗らせることはないでしょう」

「イギリスを信じろと言うのかね?」

「その方が良いでしょう。もし、アメリカが徴兵など戦争準備をしていることが分かったら、ドイツに大義名分を与えてしまいます。ですので、僕はウィルソン氏の方がアメリカのためになると思います」


 ジョンソンは手持無沙汰に指でテーブルをつついていて、それから溜息をついたわ。


「……君達が選挙活動をするうえで困ったことがあったら、いつでも相談に来たまえ。日系移民の問題については、また今度話をしよう」


 どうやらうまくいったようね。

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