第8話 1895年日本に転生しました・7

 大統領選挙が終わったわ。


 ウッドロウ・ウィルソンが当選したわね。

 カリフォルニア州は半年前には大激戦が予想されていたけれど、終わってみるとウィルソンが圧勝していたわ。


 もちろん、私達のおかげよ。


 まず、私達は中国や日本の移民たちにこうアピールしたわ。

「ヒューズ氏が大統領になるとドイツが日本をたきつけるかもしれない。そうなると、カリフォルニア州は余計東洋系移民に対して厳しい措置をとることになる。ウィルソン氏が勝たないと君達は追い出されたり、今まで以上に敵性市民扱いされるかもしれないよ」

 地元の人達にはこうアピールしたわ。

「もしヒューズ氏が当選してアメリカがドイツに敵対してくると、後の無いドイツは間違いなく日本やメキシコをたきつけてきます。カリフォルニア州は南はメキシコに、西は日本と向かい合っています。この地に住む人達が大挙して戦争に駆り出されるかもしれないのです。そうならないためにはアメリカは中立でなければなりません。ウィルソン氏を勝たせないとダメなのです」


 みんな、自分達が困ったことにはなりたくないからウィルソンに投票したり応援したりしたわ。NIMBY理論大爆発よ。


※Not In My Back Yard(我が家の裏庭にはお断り)の略。地元は勘弁。



 もちろん州知事で実力者でもあるハイラム・ジョンソンが動かなかったことも大きかったわ。

 自分のボスであるセオドア・ルーズヴェルトがヒューズを応援している手前、さすがに民主党候補者たるウィルソンの応援はできないけど、ヒューズに対して積極的に支援することもしなかったのよ(一説には個人的諍いで応援しなかったとも)。


 カリフォルニア州の状況は西海岸の他の州にも影響したようね。

 軒並み、ウィルソンの票が伸びているわ。


「実際に、日本がドイツがそういう要請を出した場合に、ドイツ側に立って攻め込むということがあったのかなぁ?」

「山県有朋がいるから多分大丈夫だとは思うけど」

 第二次世界大戦の例からすれば「東部戦線でドイツが好調だから、そっちと応じたい」的な考えを持つ者がいたとしても不思議はないけど、基本的には中国問題を優先させただろうし、受けることはなかったはずよ。

 この時期の日本を握っているのは、山県有朋だしね。彼は自身が戦下手だから慎重だけど、おおむねその慎重論は当たっていたのよ。



 あまりのんびりもしていられないわ。

 今度はホワイトハウスに行って、ウィルソンに会うことになったの。

 

 仕掛人はハイラム・ジョンソンね。彼が選挙後に私達のことをウィルソンに紹介してくれたのよ。

 本当はルーズヴェルトを通じて紹介させようとしたのだけれど。

「ルーズヴェルト氏と大統領は非常に仲が悪い」

 ということで、ちゃっかり自分の得点にしたらしいわね。


 紹介した理由はもう一つあるようだわ。

「私の信念に変わりはない。日系移民を今のまま受け入れるとカリフォルニア州はダメになってしまう。しかし、君達はアメリカにとってプラスになる人間だ。移民達の多くが君達のような存在を目指すようになれば少しは良くなるかもしれない。だから、君達は成功すべきでそのための支援は惜しまない。頑張りたまえ」

 上から目線だけど、現場の認識としてはそんなものになるわよね。



 ということで、イワンとともにワシントンD.Cに移動するわよ。

 ここでも説明することは同じね。

 世界情勢を予想して、いずれはアメリカが参戦することになるだろうと教えることになるわ。


 そして、世の中はその通りに動いていくわ。

 イギリスがドイツがメキシコに送った暗号電報を解読して、アメリカに伝えてきたのよ。

 ただ、イギリスは暗号文を解いたとバレるのが嫌だから、色々細工してメキシコの担当者からゲットしたように仕向けたのよ。

 ドイツが暗号方式を変えると面倒くさくて嫌だからね。

 イギリスはこういうところが抜け目ないわね。

 第二次世界大戦でドイツの暗号機会エニグマを解いた後も、解いたとバレて新しい装置を作られるのが嫌だから、解いたと思われないようにしていたのよ。

 必要ない時以外には解読しても気づかないフリをしてドイツに戦果を出させていたというから、徹底しているわね。


 閑話休題。

 ウィルソンから呼び出しを受けたわ。

「君達の言う通りになったよ。アメリカは参戦することにしたが、どのように戦争を終結させれば良いだろうか?」

 と言いつつ、彼は例の14箇条を用意しているわ。

 ヨーロッパを自分の理想に染めたくてウズウズしているようね。


 ここは現実を見てもらうわ。

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