第9話 1895年日本に転生しました・8

 民族問題で特にややこしいのは、中東地域、東欧地域、コーカサス地域、中国よ。

 厳密にはアフリカ各地にもあるのだけど、良いことなのか悪いことなのかは別として世界的な紛争には発展しないから、とりあえず除去しておくわ。


 このうち中東はトルコからイギリスが、コーカサスはロシアが全部引き受けるから問題ないわ。本当は良くないのかもしれないけどとりあえず良いということにしておくわ。


 東欧……特にバルカン地域はオーストリア帝国とロシア帝国、オスマン帝国が駆け引きを繰り返していったキングオブ抗争地域と言って良いわね。ここにいる人達は自分達の立ち位置……自分達がヨーロッパ人なのかアジア人なのかも知らないまま争っているのよ。


 その中で多少強い……ドラゴンボールで言うならヤムチャとか天津飯クラスと言って良いのがマジャール人、ポーランド人、セルビア人あたりかしらね。本気になったドイツやロシアには勝てないけど、地元ではまあまあでかい顔をしているのよ。

 彼らはそれぞれ伝統ある国も持っていたわ。ハンガリー王国、ポーランド・リトアニア大公国、セルビア帝国という具合にね。


 この中で、民族として一番要領よく立ち回っていたのはマジャール人なのだけど、地域としては出遅れることになったわ。

 オーストリア=ハンガリー帝国と呼ばれていただけに、ハンガリーは帝国内部では高い位置を保っていたのよ。ヨーロッパの中央にあるから色々便利で、それを利用して他民族の利権もせしめていたりしたわけ。

 ただ、それにかまけて国としての発展を怠っていたの。大土地所有者の力が強くて、中小マジャール国民が成長して要望を出してくると面倒だから管理もユダヤ人に任せて、教育も遅れていたようね。

 独り立ちすると共産主義に行ったり、王制に行ったりとしっちゃかめっちゃかよ。

 効率悪い農業を高い関税で守っていた側面もあるから、帝国がなくなって自由競争に巻き込まれると立ち行かなくなるのは当然ね。大土地所有者がユダヤ人に任せていた反感から反ユダヤ意識も強いしね(失敗した共産主義を指導したのもユダヤ系だし)。

 正直言って、20年や30年でこの国を立て直すのは難しいわ。


 ポーランドはそれなりの歴史もあるのだけど、ソ連に近すぎるのが不幸だったわ。

 ソ連はポーランドが欲しいわけだし、ポーランドもそれをひしひしと感じているから余裕のある国土設計などできるはずがないのよ。

 人がいないという問題もあるわ。史実ではピウスツキがクーデターを起こして権力を強化したけれど、彼以外にカードがなかったのよ。

 この国を救うなら、ソ連からガードするという前提の下に、何人かのソ連を知る軍人を教育することが必要になるわね。


 セルビア人は何より周辺民族との仲が悪すぎるというのがあるわ。

 スロヴェニア人はともかく、クロアチア人、ボスニア人、アルバニア人との関係は最悪よ。彼らを野放図に放り出すということは、狭い厩舎の中に猛獣の群れを放り出すに近いわね。


 天津飯やヤムチャがこんな具合なのだから、他の諸民族にはもっと困難な道が待っているわ。ベラルーシは独立したのかしてないのか分からないうちにソ連に飲み込まれたし、ウクライナも似たような運命をたどるわね。

 立ちいかなくなると列強が美味しいところだけを取りに行って、更に内部紛争が激しくなる難点もあるわね。



 一方、東アジアでは中国ね。

 この国も非常に多民族国家なのよ。漢民族が圧倒的とはいえ、これまで長いこと満州族が頂点にいたわけで、新しい漢民族の統治方針もなくまとまりがないわ。

 このうえ更に少数民族の権利を引き上げると更なる混乱に陥るのは火を見るよりも明らかなことよ。三国志に代表されるように四分五裂して群雄割拠するのは中国のお家芸と言って良いのだからね。

 実際、これからの時代、国民党、共産党を中心に各地の軍閥が相争うことになり、そこに満州族を引き連れる日本も絡んでくることになるわ。

 日本も含めて列強の権益なども存在しているし、中国が四分五裂したまま放置しておくと損をする、と日本が考えるところまでは仕方ないことなのよ。


 もちろん、列強の権益が絡んでいるから、中国の諸民族の自治権が認められることはありえないわ。ただ、ウィルソンの理念を反映させるとこうなるということね。

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