第12話 1895年日本に転生しました・11

 カレンダーが1918年になったわ。


 ここからの三年間が勝負よ。

 気合を入れて頑張らないといけないわ、正念場ね。

「そうだけど、その言い方だと今まであまり頑張ってなかったみたいに聞こえてくるね」

「言葉の綾よ」


 年明け早々、ウッドロウ・ウィルソンは14箇条の宣言を発表したわ。

 一方、ソ連となったロシアからはバルト三国やアゼルバイジャン、アルメニアと周辺国が次々と独立を宣言していっているわね。ただ、ソ連はあれもこれもとやるわけにはいかないから、まずブレスト=リトフスクでドイツと停戦条約を締結したわ。

 それに伴って、秋からシベリア出兵が進んでいくことになるけれど……


「新聞には、日本は最終的には20万人を出兵させそうだという話が出ているよ!」

 悠ちゃんが慌てふためいているわ。

 無理もないわね。史実でも他国より多い兵力を出していたけれど、最終的には7万くらいだったというわ。20万となるととんでもないわね。さすがの私もちょっと驚いているわ。

「多分、そのくらいの勢いで行くくらい言っているんでしょ?」

 東洋お得意の「号す」という奴よ。大方お偉方が酒のノリで実数の3倍とか4倍の数字を言ったのをアメリカ大使館員や記者がびっくりして記事にしただけよ。多分。

 どこまで真偽か分からないけれど書かれたことは仕方ないわ。


 一国よ、落ち着いて一国片付けるべきよ。まだ慌てるような時間じゃないわ。

 


 何度も言うけれど、最重要はドイツの処理よ。

「分かった。コペンハーゲンに行くよ」

 ということで、大統領の信任も貰ってアメリカからデンマークに行くことになるわ。

 何でコペンハーゲンかというと、ドイツはコペンハーゲンやチューリッヒのアメリカ大使館と連絡を取ることになるからよ。


 さて、ドイツも1918年の夏くらいまでは頑張っていたけれど、オーストリアやブルガリアといった同盟国が脱落していって「これはあかんかぁ」という雰囲気になってくるわ。あとはどのラインで降伏するかということね。

 史実ではヴィルヘルム2世が退位するかどうかに焦点が当てられて、帝政そのものの話もそっちにくっついてしまったわ。モタモタしていたら革命が起きてグダグダになってしまって帝政までなくなってしまったのよ。

 同じ轍は踏まないわ。「帝政は維持する」、「しかしヴィルヘルム2世には退位してもらう」という条件をきっちり主張するのよ。


 これで新宰相のマクシミリアン・バーデンを納得させたわ。史実では曖昧なまま伝えて皇帝と喧嘩したけれど、何度もはっきり伝えたから問題はないでしょう。

 話をまとめて電光石火でヴィルヘルム2世を退位させ、皇太子がヴィルヘルム3世として即位することになったわ。ヴィルヘルム2世は史実通りにオランダに同盟ね。

 多くの民衆の間では革命機運が高まっていたけれど、新皇帝が「終戦に向けて動く」と宣言したところで一歩踏みとどまったようね。これでドイツが破滅に落ちることはないわ。


 革命がないからワイマール政権は成立しないし、民主主義的には退歩かもしれないけれど、現実を考えるとやむを得ないのよ。


 ちなみに新皇帝と退位した元皇帝は、東洋人でしかも20ちょっとの若僧の悠ちゃんが交渉を先導していることが気に入らないようね。イライラしているわ。

 だけど、「日本はドイツと同じく帝政なのでこういう処置を提案したんですよ。アメリカは君主制が大嫌いですが、ご不満ならアメリカ人主導でやり直しますか?」と聞いたら大人しくなったわ。


 そう、アメリカの中には王制帝政を専制政治だと嫌う者が多いのよ。

 政治家は大体そうと見ていいわね。

 第二次世界大戦前にハプスブルク当主だったオットーは「アメリカにはコーデル・ハルをはじめ君主制嫌いでカトリック嫌いばかりで大変だけど、ハルがいないとルーズヴェルト大統領は南部で勝てないから、彼の意見を無視できないんだ」と嘆いていたというわ。

 2020年代の日本人以上に、1940年代のオットーの方が考えて分析していたというわけね。


 オットーというと、その父親のカールはハプスブルク皇帝よ。

 で、「ドイツ帝室は残す」となったから、「だったら、ハプスブルク帝室も残してくれますよね?」という雰囲気ですりよってきたわ。

 理屈のうえでは残すべきよね。

 ただ、前話でも話したけど、ドイツ皇帝はドイツ人の皇帝で、ハプスブルクはオーストリア=ハンガリーという地域の皇帝、拠って立つものが違うのよ。ドイツ人はドイツ帝室を支持しているけれど、今のハプスブルク帝室を支持する民族はいないわ。管財人の下で自分達の民族が少しでも良い分け前を預かることを期待しているのよ。


「もちろんハプスブルク帝室をなくせとは言いませんけど、今のままで維持しようとして革命とか起きても知りませんよ? ロマノフさん家みたいに」

「……」


 観念したようね。

 ハプスブルク帝室はフランツ・ヨーゼフの死とともに終わったのよ。

 カールとオットーはヨーロッパの顔を目指して頑張るべきね。

 応援しているわ。

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