第13話 1895年日本に転生しました・12
さて、ある程度話が決まったところで、イギリスとフランスも交えて話をするわよ。
両国は自分達が最前線で戦ったのに、頭越しにアメリカが色々決めてしまったのでおカンムリだわ。
史実だとドイツがモタモタしている間に懲罰政策を固めたけれど、それを回避したから怒りのやりどころがなくて収まらないようね。
でも仕方ないわ。戦争は後から参加してくる者が強いのよ。
17世紀の30年戦争ではフランスは最後の最後までデンマークやスウェーデンに戦わせて美味しいところ取りしていたのだし。
「アメリカは方針を変えないですよ。もう一回ドイツと戦争をやり直すか、最後まで反対してアジア人の若僧に屈したという評価を立てられるか、うまくすり合わせて『より良い解決策を見つけました』と言い訳するかですね」
「ぐぬぬぬ」
長い交渉の末、まずイギリスのロイド・ジョージは「仕方ない」と諦めたようね。一フランスのクレマンソーも脳溢血寸前で踏みとどまって、勝利国という名誉で我慢することにしたようよ。
残る敗戦国……オスマン=トルコとブルガリアの処理も決まったわ。
トルコではクーデターが起きてムスタファ・ケマルが政権を取ることになるはずよ。特に手をつけるべきことではないから、これは静観することになるわね。
かくして、ヨーロッパの新図式が完成したわ。
ドイツはドイツ帝国が存続、ヴィルヘルム3世の下、ヒンデンブルクがたまにオラついてはいるけど戦後日本のように慎ましく生きているわ。
オーストリア=ハンガリーの下にいた諸国は一応独立したけれど、アメリカとイギリス、フランスが列強という形で管理しているわ。
当然だけど、元ハプスブルク領のイタリアも監視下よ。ムッソリーニが極端なおイタをしないようにしないと、ね。
大人しくしていれば、歴史的に特別敵対関係にないスロヴェニア人が近づいてきてイタリア=スロヴェニア連合国になるかもしれないし、それで満足してほしいわね。
東欧を現状維持路線にくくりつけることに成功したわ。
この流れに困るのがソ連よ。
早くもハンガリーで共産主義革命が失敗することになり、「世界を真っ赤に染め上げよう」というレーニンとトロツキーの世界革命論は頓挫するわ。
結局レーニンの死後、スターリンが一国世界革命……「とりあえずソ連だけ赤ければいいじゃん」という形になるけれど、その路線に切り替えても史実以上に拡大できなくなるからストレスをためるはずよ。
スターリンはフィンランドのパーシキヴィとの関係を見ても分かるように、実は共産主義もそんなに信用していないけれど、ソ連の近くにあって、しかも自分の言うことを聞かない国なら共産主義にしないと気が済まない性質。
なのに、東ヨーロッパにはポーランドのピウスツキやチェコのマサリク教授などが頑張っているわ(そしてパーシキヴィはまだ小物だわ)。ハンガリーもどうにか王制で切り抜けるはずだし、セルビアはじめとした地域は仲間内での喧嘩を優先するから、こちらに活路はないのよ。
ドイツが慎ましくしているなら、「ファシズムか、ボリシェヴィキか」という選択肢も与えようがないからね。
そうなると、どうなると思う?
「アジアに来るんじゃない?」
「正解よ」
これから数年後に権力を握ったスターリンは、東欧の強固なラインを崩せずに東に目を向けるしかなくなるわ。
東でもうざいシベリア出兵が行われているからね。やる気になりまくっている日本を蹴散らすことを優先するのよ。
手っ取り早い手として、中国共産党に支援して、陳独秀や毛沢東を支援することになるでしょう。
東ヨーロッパが安定している以上、より不安定な中国の支配に取り掛かるのは自然ね。ソ連は史実以上に支援してくるはずで中国の流れは国民党ではなく共産党に傾くことになるはずよ。
「……それはまずそうだけど、どうやって止めるの?」
「止めないわよ」
「えっ!?」
ソ連と中国のダブル共産党に圧力をかけられている以上、日本が日米開戦を起こすはずがないじゃない。日本は共産党政権は死んでも嫌だろうから黙っていても英米に支援に求めに行くわ。
西の防波堤はピウスツキ、東の防波堤は原敬というわけよ。
20年早く冷戦状態で世界は当面固定されることになるわ。
つまり、私達の勝利というわけね。
「何だか勝った気しないけど、これでいいの?」
「そうよ、これで条件達成よ」
「……でも、そんなに簡単に中国共産党が勝つのかな? 蒋介石もそんなに簡単にあきらめることはないよね? 日本もまあまあ勢力を広げているし」
「……」
「……まさか、こっそり共産党側に有利になるようなことをしたりしないよね?」
「悠ちゃん、疑い過ぎると、ストレスで心臓病とか癌を発症するわよ?」
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