近代日本に転生しました
川野遥
第1部・近代日本に転生しました
①1895年日本に転生しました
第1話 プロローグ
私の名前は
この世界の狭間を漂う幽霊よ。
日々、面白いことがないか浮遊してさまよっているの。
『幽霊の新居千瑛さん、天界司令部まで来るように』
あら、天界司令部から呼び出しがかかったわ。
何があるのかしら、行ってみましょう。
この天界には転生を司る女神が4人存在するわ。
それぞれ古代、中世、近代、現代。
ひょっとしたら異世界も存在するかもしれないけれど。
今回呼び出されたのは近世の女神のようね。
おそらく転生を求められるのでしょうけれど、果たしてどういうものになるのかしら?
女神の部屋にやってきたわ。
目の前にいるのが近代の女神ね。中世もそうだったけど、この近世の女神も薄絹まとって露出度高め感じだわ。よっぽど自分に自信があるのかしらね?
『ようこそ、新居千瑛さん。私が近代の女神よ』
「幽霊の私にわざわざ呼び出しをかけるということは、どこかしら転生してほしい場所があるのかしら?」
『……資料にあったけど、滅茶上から目線ね』
「別に上から見ているつもりはないけど、幽霊だから他人より高いところにいるのは間違いないわね」
『そういうのが上から目線というのよ。貴女は天界で好き放題やっているらしいけれど、元々は日本の女の子でしょ?』
「その通りよ」
中学生の時に難病にかかって、一年ほど闘病して死んでしまったわ。
その時は負け組まっしぐらと思ったけれど、こうやって幽霊になると自由極まりないし、楽しいわね。
『だったら、日本の近代に転生して、日本の破滅を救うつもりはないかしら?』
「……いいわよ?」
日本の近代に転生して、破滅から救うということは、つまり太平洋戦争絡みの話ということね。
それ自体は構わないけれど、どの年代に、どういう条件で転生するかにもよって、難易度は変わってくるわ。
「どの時代に、どういう形で転生するのかしら?」
『さすがに直前だとどうしようもないでしょ? だから、1895年に生まれて、激動の1920年から1930年代を一番脂の乗り切った年齢で渡り歩く形はどうかしら? それで1941年の日米開戦を阻止するのよ』
「1895年生まれ……」
『もしかして、自信がないのかしら?』
「ある程度自由が効くのかしら? 超絶貧農に生まれてしまって、貧乏に縛られて何もできないのなら、1870年だろうと1920年だろうと関係ないわ」
貧すれば鈍するという言葉もあるわ。
生きるお金もないと、どれだけ才能があってもどうしようもないものなのよ。
『……まあ、確かにね。どのあたりの立場で転生したいの?』
「自由が効くなら何でもいいわ」
『貴族とか富豪の娘でなくても良いわけ?』
「二度も同じことを言わせないでくれる? 自由が効くなら何でもいいわ」
そもそも貴族や富豪の娘の方が目立つことをしにくいのよ。
この女神、分かっていて嫌がらせをしているのかしら?
『……じゃ、東京の中流商人の娘ね』
「構わないわ」
『1895年生まれで、リミットは1940年』
「ちょっと待ってちょうだい」
『……何なの?』
「リミットが1940年なんて長すぎるわ。1925年までで結構よ」
『はあぁ!?』
女神が何故か驚いているわ。
『いや、貴女、1歳で動ける神童じゃないのよ、分かってる!?』
「もちろん。分かっているわ。大体動けるようになるのは15歳以降でしょ?」
『そうよ! そんな短期間で日本を完全に変えることができると思うの?』
「15年もいらないわ。10年、いや、3年でも大丈夫よ」
『うっそぉ……』
女神が引いているわ。
無知というものは困ったものよね。
とはいえ、うっかり見落としていたこともあったわ。
「ただ、さすがに20世紀初頭の歴史を変えるとなると女子1人は厳しいわ」
1990年以降なら何とかなるかもしれないけど、この時代の女子の発言力は限られているわ。できるとするならば、誰かしら男を立てる形になるわね。
『あぁ、つまり兄なり夫が言うことを聞く人である必要があると』
「そういうことよ。幼馴染の悠ちゃんがいいわね。彼はできる人だし、私の言うことも聞いてくれるわ」
私が言うと、女神が固まってしまったわ。
『悠君、生きているから転生させるには死なせないといけないんだけど……』
「大丈夫よ。彼はトラブル体質だから死んだくらいで文句を言うことはないわ」
私を呼び出しておきながら、私の身近な人間も知らないというのはどういうことなのかしらね。
女神はブツブツ言いつつも、悠ちゃんを転生させるべく準備を始めたわ。
『でも、本当に1925年リミットで大丈夫なの? もうちょっとスパン取った方がいいんじゃない?』
「避けるのは日米開戦でしょ? 日中戦争ではないのでしょ?」
『そうよ』
「だったら問題ないわ。私が"3年でできる"と言っているのよ。四の五の言わず、転生させなさい」
『わ、分かったわ』
"何で女神の私より偉そうなのかしら"とかブツブツ言いながら、転生を始めたわね。
さあ、20世紀日本へ旅立つわよ。
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