第2話 1895年日本に転生しました・1

 時代は明治36年。1903年。


 東京の外れ、渋谷の中堅商家の三女として生まれて8年が経ったわ。つまり8歳ということね。この時代は数えだから9歳だけど、そういう細かいことを気にしていても仕方ないわ。


 私の家の隣には富裕な農家があって、そこの三男坊として生まれた時方家の悠ちゃん。

 この時代のことだから家の財力も同じ、年齢も同じと言うことで『新居家の千瑛嬢と、時方家の悠坊を結婚させんべ』みたいな話になっているわ。


 ま、それはさておき。

 今後のことについて相談するわ。ほぼ許婚扱いなので作業の合間に話をしていても何の問題もないのよ。


「協力してもらって申し訳ないわね、悠ちゃん」

「うん、いきなり、『死んで転生してください』と言われた時には驚いたけど、まあ、人生色々なことがあるからね。なるようになるだよ」

 悠ちゃんは達観してしまっているわ。

 こういうところで彼は信用ができるのよ。


「でも、千瑛ちゃん、転生する途中で聞いたけど、1925年までに日米開戦を回避することなんてできるの?」

「できるわ」

「そうなんだね。僕達は今から、何か準備をしておいた方がいいんだろうか?」

「そうね。英語の勉強をしておきましょう」

「英語か。確かにいざという時、アメリカやイギリスと交渉しないといけないものね」

 悠ちゃんはのんびりとした様子で頷いているわ。

 彼は信用はできるけど、こういうところが頼りないのよね。


「いざと言う時ではないわ。今後は日常的になるのよ」

「日常的?」

「そうよ。私達は15歳になったらアメリカに行くのよ」

「アメリカに!?」

「当然でしょ。アメリカで頑張って、第二次世界大戦の芽そのものを摘み取ってしまえば、日本がどれだけ戦争したくてもできなくなるわ」

「そっちなの!? 日本を変えるんじゃないの?」

「日本を変えるのもアメリカで頑張った方が楽でしょ。野球を見てみなさい。ワールドワイドでオオタニ、オオタニで、日本も制圧されてしまっているわ。もし、彼がNPBでプレーしていたらこんなことはありえないでしょ。アメリカに移籍したからこそ、こうなっているのよ」

 世界政治も同じよ。

 日本にいるより、アメリカに行った方が動かしやすいのよ。


「でも、アメリカには排日移民法みたいなのがなかったっけ? 反日感情がありそうだけど行けるのかな?」

「時代的には余裕で間に合うわね。それに制定後だとしても絶望的ではないわ。後にチャールズ・チャップリンの秘書になる高野虎市こうの とらいちやカリフォルニアでワイン王となっている長澤鼎ながさわ かなえなど、アメリカ西海岸で活躍する日本人はいくらでもいるのだから、彼らに連絡を取っておけば問題なしよ」

 ちなみに今回は1895年の楽なスタートだけど、仮に1910年生まれくらいになれば、相当厳しくなるわ。

 彼らとコネを作ってフル活用しないと間に合わないでしょうね。


「じゃあ、日本は放置しておくの?」

「放置なんて言わないでくれる? 私は我が祖国たる日本を信用しているのよ。日本は日本で頑張るはず。私達は神ではないのだから、あれもこれもと欲張るのは良くないわ。人は謙虚であるべきよ」

「千瑛ちゃんから"謙虚"という言葉を聞くとは思わなかったよ。でも、まあ、世界史を変えれば日本も勝手に変わるよね」


 悠ちゃんもどうやら納得してきたようね。

 まだ、何かもやもやしているようだけど。

「……でも、第二次世界大戦がはじまったのはヨーロッパだけど、アメリカにいて大丈夫なのかな?」

「問題ないわ。第二次世界大戦の本質さえ理解しておけば、3年程度頑張れば概ね解決するのよ」

「第二次世界大戦の本質? 何だか、『私達だけが真相を知っている』的な陰謀論のようにも聞こえてくるのだけど……?」

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