第3話 1895年日本に転生しました・2
1910年春、私と悠ちゃんはハワイを経てアメリカ西海岸に到達したわ。
当然、知り合いはほとんど誰もいない、一からのスタートよ。
アメリカの要人にピンポイントで売り込む方法もないではないけど……
「そんなことができるの?」
「できるわ。『この後こうなります』ということを2度3度当てれば、『この日本人はすごい占い師だ』ということで抱えてくれるでしょ? ただ、いきなりやると危険も伴うからじっくり地歩を固めた方が良いわね」
ということで、まずはワイン王の
しばらくは地道にワイン農場で働くことになるわね。
「まあ、日本でも農業に勤しんできたし……」
そうね、農場スキルが活きるはずよ。
「時代が時代だし、99%肉体労働なんだけど……」
長澤鼎のワイン農場に入った私達は、その英語や数学の知識を披露して二か月ほどで雇い主の長澤に呼ばれたわ。
彼は幕末のイギリス留学に最年少で参加して、そのままアメリカに滞在することになった人物。一時期少数派宗教の後継者になっていたこともあったけど、政府と市民に危険視されたから現在は宗教活動は下火にしているわね。
海千山千の人物だけど、その長澤にしても、未来の知識がある私達は凄いと感じるようだわ。
「君達は日本の農家出身なのにたいした知識だね、信じられないよ。資金を援助するからこのままアメリカの大学に進学しないかい?」
悠ちゃんが「おっ、大学?」と驚いた顔をこちらに向けてくるわ。
「……狙い通りよ」
今も昔も、アメリカは大学社会よ。大学に行けるかどうかで天と地ほども分かれると言って良いわね。
もちろん好意を受けて大学に行くことにするわ。
「甥の
赤星四郎、後にゴルファーとして有名になる人物ね。
ただ、より有名なのは彼の兄・
戦前の日本の大富豪の1人で文化活動に熱をあげ、親米派だから戦争にも反対していて、
悠ちゃんも乗り気のようだわ。
「日本人が多い方が僕も嬉しいし、ペンシルヴェニアでいいんじゃない? ハーバードとかプリンストン行くのは大変だろうし」
「……そうね。悪くはないけど、ジョージ・ワシントン大学のロースクールにも行ってほしいわ。そこにも同い年の要人がいるからね」
「誰?」
「ジョン・エドガー・フーバーよ」
「あのFBIの?」
「そうよ」
記録によるとフーバーも1895年生まれでジョージ・ワシントン大学の法学科に行っていたというわ。ただ、彼の経歴は作られたものという可能性も高いから、空振りになる可能性もあるけどね。
もっとも、転学して探しに行くこと自体は損ではないわ。そうしたら赤星一家もワシントンに来るだろうから交流の場も広がるだろうし。
私達の活動リミットは1925年で、フーバーの活躍時期とはその後になるから私達のポイントにはならないけど、何かの時のために保険として手を打っておいた方がいいわ。
「史実ではフーバーが主導して人種差別的隔離政策をしていたからね、そうなる前に仲良くなっておくのよ」
「仲良くなれるかな? フーバーも人種差別主義者とか聞いたけど?」
「大切なことを一つ教えてあげるわ。有名な反ユダヤのウィーン市長カール・ルエーガーが言った言葉よ。『ユダヤ人はどうしようもない。そして誰がユダヤ人であり、誰がそうでないかは私が決める』とね。証明書や戸籍などこまごま調べたりしないわ。フィーリングなのよ。仲良くなればいくらでも特例を作ってくれるの」
ヒトラーにしてもお気に入りは見逃したり、嫌いな人間はユダヤ人にでっちあげたりしていたと言うわ。
ルールもいい加減なものなのよ。
さて、大学に行ってもらって、交流範囲を大いに広げるわよ。
「交流範囲? 狙い目があるの?」
「そうね、狙いとしてはロシア系、東欧系の人達ね」
「ロシアと東欧?」
「アメリカ大統領のウッドロウ・ウィルソンが第一次世界大戦後に『民族自決』を唱えたことは知っているでしょ?」
「もちろん」
「ウィルソンがそれを口にしたのはどうしてか、彼の支持者の中に東欧からアメリカに渡って助けを求める層が存在したのよ。専制政治に苦しめられていたからね」
「ふむふむ」
「つまり、彼らと仲良くなり、民族自決理念を共有していれば自然とウィルソンに近づくチャンスが増えるというわけ。最短ルート攻略にはウィルソンとのパイプは必要不可欠だから逃すわけにはいかないわ」
「攻略って言い方はやめようよ」
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