第13話 大粛清
さて、そろそろ大粛清時代に入るとするわよ。
とは言っても、大粛清の以前にも小さな粛清は起きているわ。
1934年、スターリンと並ぶ巨頭として知られていたセルゲイ・キーロフが暗殺(これもスターリンの刺客説があるわね)された後、「暗殺事件を指揮したのはジノヴィエフとカーメネフの仕業だ」と言って、両派の弾圧を始めたのよ。
この時、捜査指揮に抜擢されたのがニコライ・エジョフで、彼が後々大粛清においても陣頭指揮を執ることになるわね。
ただ、「知り過ぎた男は消される」という鉄則通り、2年後にはラブレンチー・ベリヤに取って代わられることになるわ。
エジョフも迷惑な存在だけれど、ベリヤの厄介さはそれ以上よ。
だから、色々なルートを通じて、早い時期から「ベリヤはそのうちエジョフを追い落とす」とエジョフに認識させておくことにするわ。こうすることでエジョフもベリヤを追い落とそうとするはずよ。
うまく行けばそれで良いし、うまく行かなかったとしてもスターリンの中にベリヤに対する疑念が生まれるわ。
「ベリヤ亡き後、エジョフも用済みになった後は、イラクの秘密警察を40年近くまとめたこのサダモフに任せようということですな」
……まあ、そういうことね。
さて、モスクワ体育会もトゥハチェフスキーが順当に鍛え上げているわ。
これにドイツのヒトラーが危機感を抱いているわよ。
トゥハチェフスキーの粛清には色々な説があるけれど、基本的には彼を危険視したヒトラーと、元々トゥハチェフスキーを恨んでいたスターリンの思惑が一致したということが大きいようね。
で、ヒトラーのうまいところは、ドイツが直接漏らすのではなく、チェコを使ったところよ。
1895年転生でも触れたけれど、チェコは第一次大戦後にオーストリアから独立したけれど、国内にはかなりのドイツ人を抱える微妙な存在だわ。
ドイツに飲み込まれるかもしれないという恐怖を抱いているから、チェコの大統領エドゥアルド・ベネシュはどうしても影響されてしまうのよ。
だから、ドイツが「オーストリアでハプスブルク帝国が復帰することは許されない」と併合の姿勢を見せて、チェコに反オットーの立場を取らせたり(オットーが嘆いていたわ)、「実はナチスはトゥハチェフスキーと組んで、スターリンぶっ倒そうと思っているんだ。ドイツとソ連で東欧山分けだぜ」という話をもたらして、スターリンに「トゥハチェフスキーはやばいっすよ」と密告させたりしていたわけね。
「ちなみに作者はドイツ恐怖症で動いていたのではないかと思っているけれど、単純にソ連のスパイだった説も存在しているね」
1936年に、スターリンはトゥハチェフスキーはじめ赤軍の反対派を一気に粛清したわ。
「一年早いのは、ソ連の国力に余裕があるから、赤軍自体が強化されていたことによるものだよ」
で、一回、粛清を始めると「あいつも関係者、こいつも関係者」ということで止まらなくなるわ。
結局、最終的に赤軍は過半数以上の将校以上の面々を失うことになったわね。
「凄いよねぇ。それはヒトラーが『これでソ連は戦争できんやろ』と思うし、フィンランドにも苦戦するはずだよね」
「……ここからが勝負よ。一年早いのを生かして、残された赤軍将校を素早く再建するのよ」
「そんなことができるの?」
「ハハハハ! 中東で40年戦い続けた、このサダモフにお任せあれ!」
「……40年負け続けた、の間違いじゃない?」
悠ちゃんはサダモフには厳しいわ。
まあ、実際、勝ち戦は少ない気がするものね。アメリカの支援を受けてもイランに勝てなかったし、クウェートには勝ったけれど、後々負け続けたわね。
まあ、大丈夫よ。
幸いにしてトゥハチェフスキーは勝てるだけの理論を残してくれたわ。
一年早く粛清が始まるくらいに陣容も整えてはあるからね。開戦までまだ5年近くあるし、しっかり元に戻せばいいのよ。
ちなみに赤軍大粛清と並行して、幹部や一般人への大粛清も行われているわ。
「芋づる式というか、魔女狩りぽいというか……」
エジョフがついでにベリヤも告発したわね。
ジョージア出身でスターリンと対立路線を歩んでしまった「セルゴ」ことグリゴリー・オルジョニキーゼとタッグを組んでいたという理由だわ。これは中々うまい理由ね。
「セルゴは全面対決できずに自殺したとも、自殺と見せかけて暗殺されたとも言われているね」
「しかも一度告発されると、幼女暴行などの余罪もついてくるから言い逃れできないわね」
ベリヤも粛清されてしまったわ。
これで大分やりやすくなるわね。
「千瑛ちゃん、悪い顔しているよ」
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