第10話 皇室外交

 宮中改革についてはおいおい行わせることにするわ。

「やる気満々なんだね」

 当然よ。

 私が来たからにはただの皇室にしておくはずがないわ。

 宇宙に、未来に、異世界にも通用する皇室にするのよ。

「同じネタを二度使うのは褒められない話だよ」

 仕方ないわ。作者の想像力が貧困なのだから。


「皇室といえば、王室外交よ。海外の王室と婚姻を成立させる必要があるわ」

 またまた侍従共が騒ぎ始めたわ。

「そんなことができるはずが」

「そのような前例がありません」

Shut upシャラップ。そんなことを言いながら、朝鮮皇族の世子には宮家の女子を嫁がせているでしょ。前例がないなんてどの口が言えたのかしら?」

 大韓帝国の皇太子だった李垠りぎんは、日韓併合の後王族になっていたわ。その王族となった彼に、梨本宮の方子まさこを嫁がせているのよ。

「そ、それは彼らが日本の王族に入ったからでありまして」

「200年後には世界中の王族が全部日本の皇族に入っていると考えればいいのよ。先だろうと後だろうと大差はないでしょ」

 大方、『断られたら帝室のメンツが~』とか思って、努力していないだけでしょ。そういう努力しないただの侍従が国をダメにしていくのよ。

「……しかし、ヨーロッパの王室はとても受け入れてくれるとは思わないが、君には成算があるのかね?」

「もちろん、いきなり大物のゲットは難しいわ。まずは受け入れてくれそうなところから申し込むのよ」

「そんなところがあるかね?」

「まずはタイ王国に申し込むべきね」

 タイは先んじて近代化に成功した(ように見える)日本を尊敬しているわ。

 しかも、一夫多妻制だから、直系は別として履いて捨てるくらい王族がいるわ。「婚姻外交しよう」と申し込んだら、高い可能性で応じてくるのよ。

「ただ、向こうもこちらのウラを警戒しているから二線級を出してくる可能性が高いわ。だから、日本も最初は二線級を出すべきね」

「二線級って……」

 もちろん、血筋的な意味合いよ。人格的に二線級なんて言っていないわ。

「殿下には人格的にも二線級な候補がいるのかしら?」

「いるわけないじゃないか」

 ムキになって反論するあたり、誰かしら頭に思い浮かべた人はいそうね。

 まあ、それはどうでもいいの。最初は二線級かもしれないけれど、うまくいけばお互い一線級同士を引き合わせようとなるのだからね。


 タイはニートの日本と違って、怖い不良(イギリスとフランス)と切迫した関係で付き合い続けているし外交も上手だわ。

 仲良くなっておいて損がない相手なのよ。

 更に偶然にもこの年にラーマ6世が亡くなり、ラーマ7世が王位に就くことになるわ。ここからしばらく混乱が続くから、色々と日本がサポートできることもありそうよ。

 もちろん、今のところこの話は伏せておくけれど。


「まずはアジアで何件か成功させるのよ。その時点でイギリスは無視できなくなるわ」

 何せインドには小さな藩王国が今でも残っているのだからね。

 そうしたところが日本の皇族を迎えて、反抗的になるのではないかと警戒するはずよ。

 日本の兵士達はインパールを越えることができなかったけれど、そんなものを送らなくてももっと西まで進める可能性はあるのよ。


「それと同時にヨーロッパにも乗り込むわ。狙いはイギリス王家よ」

「いや、イギリスはさすがに無理ではないか」

 皇太子がびびっているわ。

 相手は世界一の大英帝国。

 日本の皇室が近づくのは無理と思っているようね。

「さすがに保証はできないけど、乗ってきそうな人物はいるわ」

 日本にも来たことがある後のエドワード8世よ。

 現在は皇太子であるエドワードは、王位についたけど、アメリカ人の平民女性ウォリス・シンプソンと結婚するために退位してしまうわ。本人以外のイギリス王室関係者全員が拒絶反応を示したほどの事件になるのよ。

「何やかんやと言い訳をつけて、多くの宮家の女性に行ってもらえば、意気投合するのがいるかもしれないわ」

 今から探りをかけておけば、エドワードが本気になれば彼は王位を賭けて結婚しようとするはずだわ(既婚者じゃなければ王家を捨てる必要はないけど)。

 そこまで行かなくてもある程度仲良くなれば、シンプソン夫人の問題が出た時に現国王ジョージ5世が「シンプソンよりは」と選んでくれる可能性もあるわね。

 もちろん人種差別意識が存在するはずだから険しい道のりであるのは間違いないわ。ただ、ハプスブルク家をきっかけにヨーロッパの他の王家とも連絡を取り合って、可能性を広げていくことができるのよ。


「分かったのなら、世界の皇室とするべくもっと努力するべきよ」

「……むう、犬養が言った以上の恐ろしい神がかりぶりだ。しかし、確かに国も我らももっと外を向くべきかもしれぬ……」

 どうやら皇太子も私の言うことを聞いた方が良いと理解したようね。

 以後、侍従達や宮中近臣を新聞社に派遣して意見を聞くことが多くなってきたわ。

 この調子で宮中も把握していくわよ。

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